アビテートF44シリーズ
F44「ガンナー」シリーズは、言わずと知れた「太陽の牙ダグラム」のヤラレメカである。 と言ってもコイツらが毎週のように撃破されていたのは番組の最初期だけで、その後すぐ主役ヤラレメカ(何だそりゃ)の座はソルティックH8にさらわれてしまった。 その短命さにはワケがあり、つまり番組開始当初は本来のヤラレメカであるソルティックH8が主人公側の主役メカであったから、ヤラレメカによってやっつけられる、さらに弱っちいヤラレメカというのを、制作者側としては登場させる必要があったのだと思われる。言ってみれば、超獣オイルドリンカーとか、シリーズ改編期のショッカー戦闘員とか、そういう可哀想なヤツらとちょっと似ているかもしれません。そうでもないですか。ああそうですか。 真の主役メカたるダグラムが登場した後、当然ながらソルティックはメインのヤラレメカという本来のポジションに収まり、それに押し出される格好で、ガンナーシリーズの存在はすっかり影が薄くなってしまった。 しかしこのメカには、「ダグラム」という作品内で果たしたもう一つの大きな役割があり、それがガンナーシリーズという無個性で面白味のないメカニック群を、ほんのひと味だけ印象深くしているとは言えるだろう。 そのあたりのことを含め、シリーズ各機について軽いノリで語ったりしてみませう。 F44A クラブガンナー 「ダグラム」放映当時、クラブガンナーのことを「(SWの)AT-ATの猿マネデザイン」だと揶揄したアニメ誌があった。しかしこれは、むしろAT-ATに失礼であろう。 確かにクラブガンナーは、四つ足歩行戦車というAT-ATのアイデアを頂戴している。しかし安直に頂戴しただけで、スタッフにはそのメカをどう動かすのかという構想もこだわりもなかった(らしい)から、何ほどの面白味もない散漫な印象のキャラクターになってしまった。 4足獣の頭部にあたる砲塔を不気味に振り立てながら、陣地内を勝ち誇ったように掃射するAT-ATのあの迫力が、クラブガンナーにあるだろうか?ないないありません。 何より、雪原をノソノソと向かってくる不格好な有脚兵器をして、「『戦車』が来るぞ!」と叫ばせて見せた、SWのあのセンス・オブ・ワンダーは、クラブガンナーとは全く無縁である。 しかしデザインの大河原氏が、ただ漫然と、あの古色蒼然たる戦車砲塔を四つ足のシャシーに載せただけという絵を描いたのだとは、あたしは思わない。あれにはあれで狙いがあったのではないか。 あたしが想像するに、クラブガンナーのデザインは、CBアーマーという兵器が、この世界の軍事体系の中でどのような立場にあるのかを表現しようとして為されたものだったのだと思う。 クラブガンナーは、実用CBアーマーの第1号だ。だから用兵側も、そもこの新兵器がホントに実戦で役立つのか、確たる成算があったわけではないだろう。 また新機軸を盛り込みすぎて開発に失敗したら困るし、といって旧態の技術ばかりを用いるのでは新兵器開発の意味がない。その辺のさじ加減の難しさは、現代でも兵器開発には決まってつきまとう。 クラブガンナーは、そうした用兵側のディレンマを絵として表現しようとしている。 つまり、 足で歩行する陸上兵器を作ろう→しかしいきなり2脚式は難しいからまず4脚式を作ろう→武装は最新兵器であるリニアガンを積もう→しかし乗り込む兵士が扱いやすいよう、まずは旧来の戦車式に搭載しよう という開発者の思惑や不安、チャレンジ精神と堅実主義のせめぎ合いが、そのフォルムから読みとれるようにデザインされているのだ。 そしてクラブガンナーでは見送られた技術的飛躍を全て盛り込む格好で、後継機たるソルティックH8はデザインされている。(2脚歩行、自由度の高いマニピュレーター装備と、それによる火器の保持) だからクラブガンナーとソルティックH8を見れば、視聴者は、CBアーマーという兵器カテゴリそのものがまだ黎明期にあること、そのスタンダードな形態や運用方法についても未だ試行錯誤中であることを、一枚絵のビジュアルからだけで納得することが出来るのだ。 そう考えればクラブガンナーは、その身をもって簡潔明瞭に作品世界を表現したナイスデザインとさえ言えるかもしれず、それ故前フリで「大きな役割を果たした」なんて書いたわけです。 しかしデザインが果たした役割と、そのデザイン自体が劇中絵として面白く動いたかはまた別問題で、冒頭書いたとおり、アニメメカとしてのクラブガンナーは何とも味気ないダメキャラクターであった。要するに、「おおっ、クラブガンナーだ!」と、その出現だけでワクワクする雰囲気が何もないのだ。まさに足付き戦車がヘコヘコ歩いてるだけなんだもん。 劇中でのイメージが混乱しまくっているのも困りもので、ソルティックの主砲をガンガン跳ね返す重装甲をデモったかと思えば、次の週にはその同じ砲一発でドッカン爆散したりする。お前の品質管理はどうなってるのだ。工場別にグレードが天と地なのか? また大河原氏らしい脳天気な設計ミスもてんこ盛り。 ミサイルポッドはその発射軸線上にヘッドライトがあり、そのまま撃てば自機をブッ壊すというトンデモ構造。 弱った演出家によって、ヘッドライトをリトラクダブル式に沈めてからミサイル発射!という作画が為されたが、ライトは薄っぺらい板の上に載ってるだけなので、実際には下に沈むだけのスペースがない。四次元ポケットにでもしまわれるのか?ライト。 異様に広い戦闘室から車長用ハッチまではエッチラはしごを登らなければならず、その途中で休憩(^^)するためなのか、間には小型の戦闘室らしい物がサンドイッチになっている。しかし寝そべりでもしなければここに人間が入れる余裕は無さそうで、その前方に付いているハッチから出ようとでもすれば、背骨がへし折れるか旋回砲塔で首チョンパされるかのどちらかだ。 かよう乗員にとっては、そのバカ構造ゆえ戦場でよりも訓練中に命を落とす危険が多そうなメカであるが、全身をムラサキ色に塗りたくってギッチョンギッチョンというマヌケな機動音と共に迫ってくる様は、敵兵にとってそれなりに恐怖の的ではあったかもしれないな。怖さの質が違うけど。 F44B テキーラガンナー テキーラガンナーは、クラブガンナーの重武装化型バリエーションという設定になっている。 実際火力はA型よりもかなり高そうで、ミサイルポッドだけ見ても、9連装のものを4基も懸架と、クラブガンナーの倍以上に強化されている。 またマダーズバルコニー(マターズという表記もあって未だにどちらが正解か不明だが)という張り出し式の武装プラットフォームが増設されていて、ここには機関砲とか対アーマーライフルなんかを据えることが出来る。まさに重武装型の貫禄十分で、「死角だらけ」だの「歩兵の良い的」だのと揶揄されたクラブガンナーの弱点を補う改良が、首尾良く施されていると言えるだろう。 しかし信じられないようなオマヌーさも満載していているところがやっぱりダグラムメカ。 そもマダーズバルコニーは、素人目にもとても実戦では使えそうにない。本体を両脇から挟むように装備されているので、主砲に俯角を付けて旋回させたら、そこに乗っている兵員をなぎ倒す危険性がありそうだし、何より兵員を乗せたままでは戦闘機動が行えない。 ガンナーシリーズは意外と身軽で、ピョコピョコジャンプしたりサッと伏せをしたりするのだが、そんなことをされたらバルコニーの兵員はもれなく吹っ飛ばされてグッチャン墜死だからである。 劇中では実際にテキーラガンナーがジャンプ機動をするシーンがあるが、あんなルーズな運用をしているとアッという間に事故死者の山だぞ。まあガルシア隊は極道なので気にしないのかもしらないが。 等々悪口を書きつつも、あたしはこのメカが結構好きだ。何より、こうした真っ当なバリエーションメカが設定されたことって、リアルロボットアニメにおいては初めてじゃなかっただろうか。 それ以前にもザクやドムなどのバリエーションは存在したが、ドムとリックドムが何も変わらないように、ビジュアル的にも運用法的にもおざなりな差違しか設けられていなかったからだ。そういう意味で、テキーラガンナーは、地味ながら画期的なメカだったと言えるかもしれない。 劇中のこのメカにもっとリアリティを持たせるには、対CBアーマー戦などには用いず、対人制圧用としてだけ運用すれば良かったと思う。つまりクラブガンナーの苦手な役割を専門に負うのだ。 具体的には、占領直後の都市の四つ辻とか収容施設の広場とかに立たせ、周囲を睥睨、制圧する。これならマダーズバルコニーの設定が生きてくるんじゃなかろうか。機動兵器ではなく、「自走して陣地侵入が出来る砲台」のように扱ってやるワケです。 F44D デザートガンナー デザートガンナーはその名称から砂漠戦専用の兵器かとも思われ、実際劇中では砂漠で活躍するのだが、設定では単にF44シリーズの最終型ということになっている。 「欠点の多かったA、B型を、より実戦的な兵器として完成させる」ことを目指したそうで、なるほど6脚式のシャシーは安定性も機動性も抜群に見える。コケたらハイそれまでよみたいなA、B型と違い、これならダグラムとだってガチンコ戦えそうだなという説得力があるのだ。 しかしその出現時期が遅すぎて、つまりソルティックH8の配備後に完成がずれ込んだため、結局量産はされずに終わったということになっている。画面に登場した2機は、増加試作型か何かなのだろう。 このあたり、現実の兵器開発エピソードでもしばしばある悲哀であって、なかなか渋い設定だ。 例えばグラマンベアキャットがもう少し早く完成していれば、太平洋戦線に大量投入されて縦横に活躍しただろう。兵器は絶対的な性能だけでは成功作とならず、その出現のタイミングが肝要なのだ。 その伝で、デザートガンナーが遅れてきた傑作機と言うほどの高性能兵器だったのかは分からないが、少なくとも劇中のコイツはムチャ強かった。 オジンことハックル君がわざわざ説明してくれるのだが、ダグラムのような2脚型CBアーマーは砂漠などの軟弱な地盤に弱く、本来の機動性が発揮できない。対してガンナーD型はそういう地形での戦闘が十八番(オハコ)なのだ。 まともに歩くことすら困難なダグラムを尻目に、2機のデザートガンナーは入れ替わり立ち替わり一撃離脱攻撃を仕掛け、主人公メカを一方的に叩きのめす! 後の逆転劇がオマヌーな出来だったために、デザートガンナーのエピソード全体としては盛り上がりに欠けたのだが、超強い敵メカの威力お披露目としてはまあまあ及第点のシーンであったと言えよう。 戦闘シーンでのデザートガンナーには2種類の生物的なアニメートが為されている。 一つは足を動かさない立ち姿勢のまま、砂面上をバーッと滑走してくる、アメンボのようなイメージ。 もう一つは6脚をガシャガシャ動かして縦横に機動する、クモのようなイメージ(大型のハエトリグモのような感じ)。 いずれの動きも、デザインそのものには面白味のないデザートガンナーにそれなりのキャラ性を与えていて、これはアニメーター側が意識してそう演技を付けたのだろう。 同じF44シリーズのA、B型は、大型4足獣、端的に言えばゾウのように作画されていたから、キャラの差別上もこの演出は正解だったと思う。 ところで緒戦でデザートガンナーに押しまくられたクリン君は、ワーだのキャーだのとひたすらビビリまくったあげく、スモーク弾を投射してようようその場を逃れるのだが、煙幕を張って逃げ出すヒーローというのもなあ・・・。お前はゴア様か? まあテロリストが主人公という前代未聞のアニメにとって、タブーと呼べるものなんか何にもなかったんでしょうがね。 |