グフ
「ガンダム」の魅力の一つに、アニメ史上初めてリアルな「兵器」として描かれた巨大ロボットという要素がある。 なるほどマジンガーZだってゲッターロボだってザンポット3だって強力な「兵器」には違いないが、それらは人同士、あるいは国家同士が武力に訴えるための「駒」として建造したモノではなく、ある程度の規模で量産されることなんて夢のまた夢だ。ましてや敵方である組織なり国家なりが、量産兵器を主力として繰り出してくるなど、それまでのロボットアニメでは皆無と言ってよい、画期的演出だった。 それを踏まえた上であえて言うと、ガンダムメカニクスの真の魅力とは、決して兵器としてのリアルさなどには拘泥せず、キャラロボットとしてのケレン味ある演出に軸足を置いたことにある。ここのところを理解しない若いファンが多くて、ホントに面食らってしまいます。 「グフ」はそういう人たちを折伏するのに格好の教材であり、初代ガンダムのMSの中でも特に好きなキャラクターです。 さて、第12話「ジオンの脅威」において初登場するグフであるが、この強烈なキャラクターが、まさにこのエピソードで顔見せをするというタイミングが素晴らしい。 ここまでのストーリーにおいて、「ジオン」なる「敵」については、ほとんど語られることがない。物語冒頭のナレーションで、「地球に独立戦争を挑んできた宇宙国家」と、さりげなく触れられるだけである。 ガルマ国葬というイベントを契機に、その「敵」の全貌が一気に立ち現れてくる。そしてそれは、民族的一体感によって強固に括られたレトロな全体主義国家であり、なおかつ未だ侮りがたい軍事力を保持し続けていることも明らかになる。まさにその強大な敵の象徴として、新型MSグフは天より降り立つのだ。 ババーン!というBGMと共に、稲光を背にして立つグフ! 「こいつはとっても強い新手なのだ!」ということを、一瞬にして視聴者に納得させてしまう、ガンダム屈指の名シーンだ。 そしてその印象通り、グフは、これまでザクを鎧袖一触と蹴散らしてきたガンダムを圧倒する!まさに、 「ザクとは違うのだよ!」 何というケレン味溢れる見え切り、そして大胆にデフォルメされた相克の美しさよ! と言って、決して、ガンダム節ともいうべき「らしさ」の描写がお留守になっているワケではない。歴戦の勇士ランバ・ラルは、ビームサーベルの何たるかを瞬時に看破し、ガンダムの腕を受け止めるのだ!く〜っ、痺れます! グフの大活躍シーンは、他に第19話「ランバ・ラル特攻」があるが(共に松崎健一氏の脚本なのがミソですね)、ここでもそのカタルシスは、戦闘の開始される一瞬に凝集される。 「手強い・・・しかし!」 ラルの独白と共に、互いに獲物を抜き放ちながら左右へ体を入れ替えるグフとガンダム!途端に鳴り出す勇ましいBGM!もう失神モノ!チャンバラマンガはこうでなくっちゃ! こうした、まさにキャラロボットとしてのマンガチックな演出と、そこから生まれる何とも言えない痛快さ、これこそがあたしにとって、活劇としての「ガンダム」の魅力である。 兵器であるMSがあくまでも兵器として演出されるのではなく、敵と対峙すれば、魂の宿ったキャラとして見得を切り、剣を交える。そこが大切なのだ。 「0083」などのやけにシリアスぶっただけの作品は、だからあたしの心にはアピールしないのです。一言で言って、退屈。 そう考えてグフのエピソードを見るとき、もう二度とは帰ってこないかもしれない「ロボットアニメ」の興奮を思い、ちょっぴり切ない気持ちになったりもします。 P.S. 余談ですが、グフの「ヒートロッド」なる武器は、未だに「高熱兵器」だとする文献と、「電撃兵器」だとする文献がありますが、実のところはどうなのでしょうか? その名前と、ガンダムの脚部を一瞬で切断する描写などからして、あたしは前者であると考えていますが、どなたか真相をご存じないですか? |