ガンダム

 言わずと知れた、日本のロボットアニメの歴史を変えた偉大なるスーパーロボットである。ガンダムが大地に立ったあの日のことを、あたしたちの世代のアニメオタクは、生涯忘れることはないであろう。



 さて、ガンダムという主人公メカについては、その誕生以来、それこそ仏教典をも超えるようなボリュームのテキストによって論じられてきたであろうが、ここでは一点だけについて述べておくことにする。
 それは、グフなどの項でも再三述べている通り、このメカニックがあくまでスーパーロボットであり、Zガンダムだのダンパインだのという、「工業製品」に軸足を置いたその後のリアルロボットとは、明らかにその素性を異にしているということだ。
 そして同時に、ガンダムは純然たる「兵器」でもある。これら一見背反する要素が、この画期的ロボットアニメにおいて、どのように合理化されていたのかを以下に述べよう。



 スーパーロボットの定義には諸説(んなイイもんか)あろうが、あたし的には、「スーパーロボットとして演出されたロボット」としか言いようがないと思っている。
 端的には、「マジンガーZ」の演出法を色濃く受け継いでいるロボットとでも言えようか。



 後にまた述べる機会があると思うが、マジンガーZとは、機械に天下った戦闘神・・・まさに「魔神」である。



 なるほどマジンガーは、絵的には強大な兵器を搭載した重機械として描かれるし、それ故にオマヌケな弱点も多々存在する。パイロットである兜甲児の不慣れやドジのため、機械獣相手に苦戦を演じることも多い。
 しかしマジンガーがひとたびその真の力を振るえば、いかなる敵であろうとバラバラに粉砕し得るということは、視聴者の誰もが知っている。



 何者をも敵としない、荒ぶる神の無敵なる力・・・スーパーロボットにはこのセンスが大切なのだ。(少なくとも初登場後一定期間は)



 ひるがえって初代ガンダムの演出を検証すると、彼にはまさに、マジンガーと同じ「魔神」が宿っていることが納得されるであろう。



 敵メカの主砲を易々と弾き返す、強固この上ない装甲!
 敵メカを赤子のようにもてあそぶ、恐るべき肉弾パワー!
 敵メカを一撃で粉砕する、桁違いの破壊力を持った主砲!



 驚異のモビルスーツガンダムを彩るそれらビジュアルは、まさに鋼に装甲された無敵の魔神、マジンガーそのもののイメージである。
 引きちぎったザクの頭部ユニットを鷲掴みにし、傲然と四肢を踏ん張るガンダムを見るがよい!
 そこにいるのは、殴られればへこむ工業製品ではない。無限の力を宿した戦闘神、スーパーロボットなのだ!(「Z」以降の若いファン達には、どうもその辺りが実感しにくいらしいのですが。)



 さてしかし、ガンダムが常に掛け値なしの無敵ロボであれば、ドラマ自体が成立しなくなってしまう。それ一機あれば、戦争が終わってしまうのだから。
 そこで作劇側としては、ガンダムの力を外的要因で制限する必要がある。
 それこそが、「開発者の血縁者(アムロ)」をパイロットとし、彼が操縦に不慣れであるため、緒戦、強敵との対決には苦戦を強いられるというシチュエーションであって、それは「祖父から恐るべき遺産を受け継いだものの、どう動かして良いかも分からない少年(兜甲児)」をパイロットに頂く、マジンガーと全く同じパターンであることがお分かりであろう。



 では、そこまで色濃くマジンガーの血を受け継いだガンダムが、何故それまでのマジンガーの子孫達・・・つまり他の凡百のスーパーロボットとは明らかに一線を画していたのか?
 それはガンダムが、本質はスーパーロボットであり、そのようにパワーの演出をされながら、ドラマ内ではあくまで「兵器」として位置付けられていたからだ。



 マジンガーその他のスーパーロボットが「スーパー」たるドラマ内でのアリバイは、
 「マッドサイエンティストが未知のエネルギーや超合金を利用して建造した」
 からとか、
 「太古の文明による超科学によって建造された」
 からなどというのが常道であって、それは同じ富野氏の作品である「勇者ライディーン」や「ザンポット3」などにおいても、パターンとして裏切られることはない。



 しかしガンダムは違う。
 彼が無敵であるドラマ内でのアリバイは、単に「強力無比な新兵器」だからなのだ。



 「新兵器だから強い」
 しごく当たり前なこの理屈が、主役たるスーパーロボットの演出として利用されたのは「ガンダム」が最初である。
 そしてそれがあまりにも鮮烈に表現された第1話は、兵器であるスーパーロボットの演出としては、まさに空前にして絶後の完成度だ。これ以上にカッコイイ主人公メカのデビューを、少なくともあたしは知らない。



 「これが連邦軍の新兵器なのか・・・」
 キャリアー上のガンダムを見上げてアムロがそう呟いた瞬間、スーパーロボット新時代の幕は開いた。
 しかしその後のロボットアニメ界において、ガンダムを超える「兵器たるスーパーロボット」は、ついに現れていない。
 あたしたちは、あの鬼神のごとき白いロボットの勇姿を、失われてしまった若い日の恋の想い出のように、胸の中で繰り返し慈しみ続けるしかないのであろう。


→戻る