イデオン

 あたしはイデオンというメカニックが大好きであるが、それは劇中での活躍シーンがメチャクチャにカッコイイから・・・つまり「伝説巨神イデオン」という番組のアクション演出が素晴らしく優れていたからである。
 逆に言うと、イデオンというメカそのものはむしろ相当に不細工で、新味も面白味もなかったワケであり、だから演出に興が乗ってくるまでの数ヶ月間はかなり辛かった。



 実際、富野氏の新作アニメということで、ガンダム第1話のようなカタルシスを期待してテレビの前に座ったあたしたちアニメオタクは、当時相当にガッカリさせられたものである。
 何というか、とにかく主人公メカとしてのイデオンがパッとしない印象であった。ザクをどつき倒すわ胴切りにするわと大暴れだったガンダムに対し、イデオンてばチョコンと飛行機を小突くだけという、地味な、地味〜なデビューぶり。何を遠慮してんねん?主役だったらもっと暴れたらんかい!って感じだった。
 当初の作画状態が劣悪だったこともあり、イデオンが100メートルを超える異常に巨大なメカニズムであるという、まさにそのこと故の魅力もさっぱり出ていなかった。あたしなど、雑誌に載った資料で初めてイデオンの全高を知り、画面との齟齬感に仰天したものである。
 G1レースで、ガチガチの鉄板本命馬が第1コーナーでコケたって感じ・・・そんな寒々としたデビューを、メカニックとしてのイデオンは飾ったのだった。



 それが敵メカとしてジグ・マックが登場したあたりから、イデオンのメカアクションはグリグリ格好良くなっていった。
 何より作画状態がメキメキ向上してゆき、アクションを見せるビジュアルの下地が整った。例えばミサイルが飛んでいく絵ひとつにしても、それが「らしく」、「格好良く」描かれているか否かで、作品に対する印象はガラリと変わってしまう。架空の世界を描くロボットアクションだからこそ、とりわけそのビジュアルには(リアルであるということとは別に)強い説得力が必要なのだ。
 イデオン本体もぐんぐん巨大に見えるようになり、ガンダムとは違う、雲つく巨人メカニックとしてのキャラを明確にし始めた。これには、その対峙する敵メカにも、この頃から作画上の変化が現れ始めたことが大きく貢献しているだろう。
 ジグ・マックには、恐らく板野一郎氏の手になるのであろう独特のディティール(装甲の継ぎ目に、ジュラルミンのシワ様の質感が書き入れられた)が施され、それがリアルであるかどうかはともかく、重機動メカの尋常ではないスケールを強烈にアピールすることに成功したのだ。
 超巨大な敵と戦うイデオンも当然に超巨大であると納得できるワケで、しかもそれらを市街地で激突させることによって画面の迫力はいや増した。ブラジラーやアジアン星ビル街における戦闘シーンなど、東宝怪獣映画もかくやと思われるほどの、目のくらむようなスペクタクルである。



 同じ頃から、イデオンの戦い方にも変化が生じた。遠慮がちに戦闘機をはたいていただけの初期とは異なり、とにかく撃ちまくって暴れまくってガンガン敵を屠るようになったのである。
 バッフ・クランの正規軍やオーメ財団私設軍などという強敵がゾロゾロ押し寄せ始めたため、ドラマ上の要請からいきおいそうなったということも言えるが、やはり戦闘シーンをもっと派手にしようという演出側からのベクトルが働いていたことも事実だろう。
 ミサイル一斉発射に代表されるシャープなアクションシーンは、イデオンにカタルシスあふれる戦闘メカニックの魅力を吹き込んだにとどまらず、その後のロボットアニメではどこでも当たり前に見られる常套演出となった。まさに一つの文化を丸ごと右へならえとするほどのパワーをもって、あの冴えなかったデクの坊ロボットは、一気にジャンルの頂点へと駆け上がったのだ!



 さて、メカとしてのイデオンには、状況によって2種類の描かれ方と、そのそれぞれの魅力がある。



 第一に、その巨体をモジュール構造の戦艦と見なして描かれたイデオン。
 人間はイデオンの各ブロックをチマチマした武装のプラットフォームとして利用し、この場合は手や足も本来の機能をはずれて、互いに呼応することなく勝手に撃ちまくる個別の戦闘部門(砲座)として用いられる。
 まさにイデオンの並はずれた巨大さがあってこその演出で、敵に切断された脚部が独自に航行しながらなおかつ砲撃を続けるシーンなど、まるで脳が全身に分散した宇宙生物のようなイメージでカッコイイ!



 そして第二には、人型であることの意味を強烈にアピールする、つまり本来の巨大ロボットとしてのイデオン。
 この場合は当然にパンチやキックを駆使するが、それがミサイルを100発撃つよりも強力だったりするから痛快である。イデオンの格闘動作はスローモーだが、それはその巨体ぶりを表現するための演出であって、視聴者はそのパンチなりキックなりに、とてつもなく巨大な慣性モーメントが働いていることを一目で実感できるのだ。
 ガンダムがぶん殴ってもガンガ・ルブはビクともしないだろうが、イデオンのパンチなら一撃で大穴が開く。それが画面で無理なく納得できるのである。
 またロボットとしてのイデオンは、イデオン・ガンやイデオン・ソードなど、無限力の具現と言うべき超兵器を駆使できるのも魅力だ。玩具屋の押し付け設定であったためか、演出として今ひとつノリきれていないのが残念だったが、イデオンの神鳴るパワーを表現する役割は十分に果たしていたと思う。ドウモウスターでのソード発現シーンなど超カッコイイ!


 スタッフはこれら二種の演出を、時には使い分け、時には組み合わせて(EX・相手にパンチを入れながら、その同じ腕から同時にミサイルを放出するシーン)メリハリ良く用い、それまでにはなかった奥行きのある戦闘シーンを創出した。
 ガンガ・ルブに体当たりをかました瞬間、すかさずボディに押し当てられてくるガンガ・ルブのミサイルランチャーを、イデオン腹側部のランチャーが逆に粉砕するシーンなど、スピード感といいパワフルさといい、全く間然する所なし!リアルロボットのビジュアル、まさにここに極まれりの感がある。スゴイよイデオン!



 ガンダムと違って、その世界で自由に遊ぶということがやりにくいソフトだったためか、その後長くブームが継続するということはなかったが、イデオン(TVシリーズ)を見ていない者などリアルロボットファンだとはとても言えないとあたしは思う。
 今すぐ万難を排して視聴せよ!そしてそのカタルシスに打ち震えるがいい!



 追記・イデオンがグワーッと腕を広げる合体完了シーンは、マジンガーだとかゲッターロボなんかが、ビカーッと光ってガオーッ!と吠える決めシーンの直系演出と言えるが、そういう古典的見えきりが大好きなあたしはムチャクチャ心を揺さぶられる。
 それにしても、あのキラキラする排気は何であろうか?(光るワキガとか呼ばれていた(^^))反物質粒子の対消滅光かなとも思っていたが、どうもそうではないようです。


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