マッケレル(鯖の意)は「太陽の牙ダグラム」に登場する唯一の水陸両用CBアーマーである。
ダグラムだって水中には潜れるよという御意見もおありだろうが、それはあくまでやれば出来ますというハナシであって、そもそもの運用目的からすれば水陸両用とは言えないだろう。ガンダムを水陸両用MSとは呼ばないのと同じである。
ちなみにデュアルマガジンでは、マッケレルは「強襲揚陸戦用CBアーマー」とカテゴライズされていました。
そのデザインはよく見る水中作業着にクラゲのイメージを加味した上でロボット風にアレンジしてみましたって感じ。
ブサイクな太鼓腹と言い毎度散漫なシーリング部の処理と言い全体に垢抜けないことおびただしいんだけど、一目見ただけで「水中用」と分かるデザインになってるのは悪くないと思う。そのキャラを分かりやすくアピールすることは、アニメメカとしてとても大切だからだ。
対アーマーライフル16門にミサイルキャニスター二基という武装の貧弱さ(対CBアーマー用の決戦火器を持たない)もキャラクター表現上ナイスだ。つまりあくまで短時間の水際橋頭堡確保に使えれば良いという本機の運用目的を、その武装設定が良く表している。
このあたり、同じ上陸作戦用の水陸両用機でありながらガンダムとも互角以上に渡り合っちゃうゴッグのスーパーロボットぶりに比べると明らかに(味として)リアルで、ミリタリー寄りに振られた本作の特色が出ているとも言える。そりゃあフォルム自体の格好良さは安彦フィニッシュによるゴッグの方が6億倍上だが、こういう絵的な野暮ったさがダグラムのテイストでもあるわけだから。
まあ例によって、両腕にはアーマーライフルの機関部と弾倉以外に何も入りそうにないとか、ミサイルなんてデリケートな武器を積むんだからその格納部にはシャッターでも設けて与圧しておくのが吉なんじゃないかとか不合理さは色々目に付くが、ミリタリロボットとは言え所詮はアニメメカなんだから笑って許せる範疇です。
しかるに本機の印象がどうもパッとしないのは、やっぱり劇中の扱い(=戦闘シーン)がダメダメだからでしょう。まあこれもダグラムらしいと言えばそうなのだが、ハッキリ言って宇宙一格好悪い、スーパーウルトラバカ演出なのだ。
マッケレルは「ダグラム」本編中たった2エピソードにしか登場しない(多分)。第58話「解き放たれた野心」と第59話「威信かける海戦」がそれだが、どちらが印象的かと言えば、やっぱり初登場エピソードとなった第58話の方だろう。これはドガ沖海戦前夜を描いたもので、マッケレルは夜陰に乗じた強行偵察任務を帯びて出現する。
まずは夜の海中を画面奥からシュ〜ッと巡航してくるマッケレル三機編隊が映り、視聴者はそれを一目見れば「こいつは水中用のCBアーマーなんだな」と納得出来るわけだから絵作りとしては不正解とも言えないんだけど、その素っ気なさというか芸のない画面の印象はいかにもダグラムで、いきなりガッカリしてしまう。ゴッグなんか巡航形態で海面間近に浮いているだけのシーンでもムチャクチャ存在感があるのにさあ。
マッケレル隊は次いで揃って海底に降り立ち、そこで背部のハイドロエンジンパックを切り離すと、行儀良く一列横隊のまま海底をノッシノッシ歩いて(!)進み始める。
別に上陸作戦をしに来たのではなくて偵察に来たんだから、逃げるときのことを考えれば水中用の推進器を切り離すのはナンセンスだろうと思うんだけど、演出側としては「ハイドロエンジンを切り離せる」という、設定画まで用意されていたギミックを画面でも見せたかったのだろう。しかし見せるなら合理的に見せる工夫をして欲しいのであって、この辺りがまたぞろ本作演出のヘタレなところだ。
マヌケさはその後も音速を超えて加速するばかり。
海岸線に達したマッケレル隊は何の警戒行動も取らないまま三機仲良く海面へ浮上し、既に敵の接近を察知していたデロイア7によって投光器を向けられてもノンキにその場へ突っ立ったままだ。
リニアカノンで一機が撃破されるとようやく反撃を開始するが、せいぜいアーマーライフルで投光器を破壊するのが関の山。
もう一機はあるまいことかノコノコ水中に入ってきたダグラム(クリンよォ・・・)によって返り討ちに遭い、残った一機はマベリックヘリに懸架されて逃走する。何しに来たんだよお前らは!!
「ダグラム」の戦闘シーンのダメさっていうのは、マンガ、アニメ的なケレン味の極端に乏しい画面作り(アニメアール担当分を除く)をしておきながら、しかしそれでリアルな味が出ているかというと単にマヌケにしか見えないことであって、さしずめこのマッケレルのエピソードなんかはその代表格と言えよう。要するに、頭の中でカッコイイ絵の描けるスタッフがいなかったというのが致命的だったんだと思う。
「偵察行に来て撃退されるマッケレル隊」を、上で述べたようなスタッフのそもそもの演出意図を盛り込みつつ、しかしもうちょっとでもカッコ良く描くには、例えば以下のようにすればよろしい。
まずマッケレルの出現シーンにはいくらなんでももうちとケレン味が欲しい。例えばゾックの水中シーンなんかにさらにメリハリを付けたような感じはどうだろう。
深い青色で夜の海中を表現しておき、手前には魚の群れを配する(デロイアの海には魚がいるらしいから)。その群れを左右にサッと引いたところへ奥から真っ黒い固まり(マッケレル)をグングン接近させ、それが画面一杯になったところでキャノピーをギン!と光らせる。一瞬の後に透過光を消し、キャノピー越しにパイロットを見せる。せめてこれくらいはやってくれないと、初登場のキャラを強く印象づけることは出来ないだろう。
せっかくパイロットを映すのだから、カメラをコクピットへ入れて、くどくならない程度に彼らの描写をするのも良いだろう。相互に交信をさせ、任務について説明したりさせるわけだ。水中用のメカとして、タンクをブローしたりする描写があってもいいよね。
海岸線に達したら、まず隊長機がソロ〜ッと頭頂部を海面に出し、辺りを窺う。本編みたくいきなりドバ〜ッとは立ち上がらず、あくまで偵察に来てるんだということを絵で示すのだ。
しかし海岸は静まりかえっている。隊長機は半身を水面に出し、センサーをサーマルに切り替えようとしたとき、待ちかまえていたデロイア7が一斉に投光器を照射!狼狽える隊長機を、すかさずダグラムがリニアカノンで撃破する!
これに激昂したもう一機のマッケレルは、僚機が止めるのも聞かずに海岸へ突進する。上陸して攻撃を仕掛けようとするわけだが、ハイドロジェットパックを外す描写はここで入れれば良い。設定でも「上陸時に切り離す」としてあるのだから合理的だし、巨大なユニットが海面上に投棄されて水柱を上げれば絵的にも派手になる。
この機は当然デロイア7全員からつるべ撃ちに遭って砂浜に擱座し(ロッキーたちの眼前に倒れ込ませて巨大感を演出する)、怖じ気づいた残り一機は(ハイドロエンジンを付けたまま)海中へ逃走、追撃しようとするクリンをロッキーが諫めてシーンは終了する。
何やらはままさのりみたいに頭の悪そうなリズムの文章になっちゃって恐縮だが、コンバットシーンには少なくともこのくらいの工夫、緊張感が欲しいですよ。
続く第59話でもマッケレルのマヌケさは徹底していて、せっかく運用母艦からの発進シーンがあるのに演出がぞんざいで微塵もワンダバ味が出ておらず、また真っ昼間からノコノコと上陸を敢行しようとしてアイアンフット隊からタコ殴りに遭うなどまるでイイとこ無し!どこまでも情けない鯖なのであった。
まあこの回は艦隊防空もへったくれもない地球連邦軍の超絶的な白痴ぶりの前に全てがかすんじゃって、マッケレルのアホさがやや目立たなくはなってるけどね。わざわざザルツェフさんを参謀にスカウトしなくても、あたしでもサルでもミトコンドリアでも勝てるぜ、連邦軍。
|