ソルティックH8

ラウンドフェイサー

 ソルティックH8・ラウンドフェイサー・・・このロボットは、「太陽の牙ダグラム」における、いわば「ジオンのザク」である。
 つまりは敵方が使用する最大の量産機であり、毎度主人公メカにやっつけられる「やられメカ」というワケだ。


 もっとも、ザクと同列に論じられてはザクに怒られるんではないかというほど、そのデザインは散漫かつステレオタイプで、要するにザクのボディを鋭角的にリライトして頭でっかちにしただけのようなシロモノであり、何らの新味も面白みもあったモノではない。
 唯一、ザクやガンダムでさえ、表情をつける記号として捨てきれなかった「目」を廃し、頭部を丸ごと航空機然としたキャノピー様に描いたことが、本機のキャラ性と言えばキャラ性であった。(同時にそれは、「コンバットアーマー」という無個性なメカニックを代表する、唯一無二と言っていい共通記号となる)


 とは言え本機は、本編中、単なる「やられメカ」以上の役割を果たしてもいる。
 何しろ主人公クリンが始めて乗るコンバットアーマーであるし、第7話までは、彼の愛機として、事実上の主人公メカの役を務めるのである。
 純然たる量産機が主人公メカたりうるという、後の「ボトムズ」の画期的な演出法への手がかりを、高橋良輔監督は、恐らくここでつかんだのではなかったろうか。


 メカニックの演出法としても、本機は後にスタンダードとなる画期的なモノをいくつも提示している。
 ロボットに布製の服(?)を着せたり、ハンググライダーを使用させたりだのという思い切った演出法は、今日日では珍しくもないけれど、当時としては画期的であり、それらを初めて体現したのが、他ならぬラウンドフェイサーだったのだ。
 一部見識のないアニメ誌が、「リアルさの欠片もない」などと揶揄したけれども、今にして思えば、それらはあまりにも時代を先取りしすぎたためだったのであろう。


 本機にはまた、最初期の主人公メカとして、見せ場も比較的多く存在した。
 分けても最高なのは、第4話において、クリンが初めて本機を駆るシーンであろう。


 敵の奇襲で大打撃を受けた連邦軍基地において、主人公クリンは、放置されたラウンドフェイサーに無断で搭乗、反撃を開始する。
 「しめた、パワーオンしてるぞ!」
 ゆっくりと上体を起こすラウンドフェイサー。足のアクチュエーターに動力が伝わると同時に、アスファルトをバキンと踏み抜くシーンの何という格好良さ!
 立ち上がるや、ラウンドフェイサーは、敵の旧式マシンを圧倒する高機動性を発揮!二機を粉砕し、新兵器の威力を見せつける。


 この戦闘シーンは、谷口氏が作監を務めたこともあって、実にシャープに仕上がっており、コンバットアーマーの機動と共に足下でバラバラになって舞い上がる舗装路の演出が印象的だ。
 現用の戦車だって、舗装路を行進するときはゴムパッドを付けたりするのだから、それより接地圧の高そうなロボット兵器にあっては、こういう演出は当然為されるべきだったろう。しかし実現されたのは、このラウンドフェイサーの戦闘シーンが最初と言ってもいいのではないだろうか。(ついでに書けば、このシーンでは、アニメ史上初めて、高初速機関砲の比較的リアルな効果音が挿入された)


 などと書いてくると、地味なりになかなか盛りだくさんでエポックなメカだったことが分かりますね、ラウンドフェイサー。作品本体と共に、もうちょっと再評価されてもよいのではないだろうか。


 ちなみにこのメカ、劇中では、ニックネームの「ラウンドフェイサー」と呼称されることはほとんどなく、何故か開発メーカー名である「ソルティック」と呼ばれることが普通である。
 日本軍が、グラマン製戦闘機をおしなべて「グラマン」と呼んだのと同じようなノリと言えようか。
 物語後半には同じメーカー製である「ブッシュマン」なるコンバットアーマーが登場するが、これも劇中では「ソルティック」と呼ばれており、何気に格好良かったです。


→戻る