太陽の牙ダグラム

 「一番好きなロボットアニメのプロデューサーは?」と聞かれたら、あたしの場合、真っ先に高橋良輔監督の名前を挙げる。
 富野氏のような派手さこそないけれど、その実直で誠実な仕事ぶりは、日本のリアルロボットアニメ史にとってかけがえのない財産だ。こういう人のお仕事が、もっと評価される世の中じゃないとイケナイと思う。


 さて、その高橋氏にとって、「リアルロボット」というジャンルへのデビュー作となったのが、「太陽の牙ダグラム」である。
 本作は、「ガンダム」によって誕生した「リアルロボット」というエンタテイメントの手法を、一つのジャンルとしてアニメ界に位置づけた功労者と言えるでしょう。


 当時、ガンダムのプラモデル、いわゆる「ガンブラ」が大ブームとなっていて、「バンダイ」なる田舎者会社が濡れ手に粟の収益を上げていたという背景があり、生まれたばかりのその市場への参入に、大御所「タカラ」が名乗りを上げたのであった。


 作品世界をまず周到に組み上げ、それと矛盾がないような商品展開で、丁寧な作りのオモチャを送り出してくるタカラの企業姿勢は、さすがにバンダイなどというインチキ会社とは一味違うモノだった。
 あたしは手に取ったことはないけれど、ダグラムを立体化した「デュアルモデル」なるトイは、その精密さや盛り込まれたギミックの秀逸さで大いに話題となった。


 番組自体も延長が決まって予想外の大河ドラマとなり、タカラの試みはひとまず成功したのであるが、アニメそのものに対する評価は、当時そりゃもうヒドイものでありました。(^^;)


 曰く「村議会レベルの陳腐な政治劇」、曰く「あってもなくてもいいような、演出不在のメカニック群」、曰く「美形が一人も登場しない。女はみんなブスばかり」、曰く「クリンは将来絶対にハゲる」等々、もうその辺でイイでしょうと言いたくなるほど、ネガティブな評価の雨あられ。
 高橋監督への評価は散々に凋落し、キャリアが長いだけの無能監督(彼はアニメ界最古参の演出家の一人)とコキ下ろされました。


 それらの批判は、逆に言えば、「ガンダム」の後を継ぐリアルロボット作品を待望していたファン達の、「期待を裏切られた!」という苛立ちの声であった。


 あたし(ラスカル)も、上に挙げたような批判はそれぞれもっともだと思うし、「ダグラム」という作品自体は、実に冴えない凡作と言い切っても良いと思う。
 それでも、他のファン同様、「つまらない、つまらない」と言いながらもダグラムを見続けていたのは、高橋監督の生真面目な仕事ぶりが好きだったからである。


 さて、今日改めて本作を俯瞰してみるに、演出上の問題点は山ほどあるが、このサイトの内容上、ここでは一点だけ触れておこう。
 それは、「コンバットアーマー」なるロボット兵器の描かれ方である。


 そもそも高橋氏はじめ本作のスタッフには、「コンバットアーマー」が如何なる兵器であるのか、確固たるイメージがなかったように思える。
 機甲打撃用の決戦兵器なのか、歩兵直協用の支援兵器なのか、その戦場はジャングルなのか、市街なのか、砂漠なのか、その武装は何に対して用いるものであり、いかほどの威力を秘めているのか・・・・。
 コンバットアーマーには、それら具体的なイメージがスッポリと欠落している。


 スタッフにとって「コンバットアーマー」は、上記の全ての要素を包括するスーパー兵器であり、モビルスーツのように、あらゆる戦場で様々な活躍をする巨大な人型マシーンという程度の、ボンヤリとした輪郭しかなかったのであろう。


 その怠慢は、そっくりそのまま、作品にネガティブな影を落とす。
 ある時は疾風のように機動し、宙高く舞って敵機を屠るコンバットアーマーだが、別のある時は、ナメクジのようにノロノロと地べたを這い、歩兵の携帯火器でアッサリと返り討ちにあってしまう。かようにイメージが混乱していては、視聴者は作品世界に入り込む前に白けてしまうだろう。
 ロボットアニメの一番の見せ場はロボット同士の激突であり、そこに発生する胸のすくようなカタルシスなのであるから、ここはやはり、コンバットアーマーとは、敵コンバットアーマーを撃滅するための機甲決戦兵器だと設定するべきだったであろう。


 さて、そんな致命的欠陥を負い、サンライズ1スタ(だったと思う)のヒドイ作画をあてがわれながらも、本作には活劇としての見せ場はそれなりに存在している。
 物語冒頭の人質奪還作戦においては、たどたどしいながらも「軍事作戦」としてのロボット戦が描かれたし、後半の大規模機甲戦、分けても第53話「反撃の導火線」におけるブロックヘッド部隊とアイアンフット部隊の激突は、谷口泰守氏が作監を務めたこともあって、大迫力のコンバットシーンに仕上がっている。


 ドラマとしても、シリーズ構成を務めた星山氏の超ワンパターンなテーマ、「求め続ける若さ」が、それなりの説得力を持って完結しており、サマリン博士が「太陽の牙」のメンバーに看取られて息をひきとるシーンなど、恥ずかしながら、あたしはポロッと泣けてしまいました。(お手軽)


 今でも本作の根強いファンがいるのは、そうした、微かながらもキラリと光る部分に魅せられているからでしょうね。
 高橋監督自身も、本作の経験を無駄にはせず、次にはあの「装甲騎兵ボトムズ」というスマッシュヒットを放ちました。
 つまり「ダグラム」は、「リアルロボット」が多種多様に発展していくための礎石としての役割を、十分以上に果たしたのである。


 かように考えるとき、「ダグラム」という作品自体はアニメ史の中で報われることはなかったけれど、まさにもって瞑すべしといったところでありましょう。


 追記・それにしても、第1話のコンバットシーンで流れるBGMは、その後どうして一度も用いられなかったのでしょう?とってもカッコイイのに。

太陽の牙ダグラム

ストーリー

演出

作画

メカニック描写

エポック度

総合評価

 ★総合評価基準=A・超良い、B・良い、C・普通、D・悪い、E・死んで欲しい

ちなみに絶対的な評価ではなく、その当時のアニメ界における相対的な評価です。



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