トップをねらえ!

 本作はガイナックス初のオリジナルロボットアニメーションであり、若き天才作家、庵野秀明の名を天下に知らしめたスマッシュヒットである。
 そもガイナックスって「王立宇宙軍」の製作のためだけに結成された臨時委員会的な組織だったのに、いつの間にかのうのうとアニメ製作会社でございという顔をしてのさばっているんだから、さすが大阪商人(あきんど)はエエ根性しとまんなあ。


 さて本作のテーマについて最初に述べておくと、それは
 「『時』というものに隔てられてしまう、人とその心の哀しさ」
 ではないかと、あたしは解釈している。


 西岸良平のマンガなんかで、愛し合っていた男女や、親しかった幼友達などが数十年ぶりに再会し、変わってしまった各々の境遇、運命に嘆息するというパターンがよくあるが、そうした、「無常」という概念の前に立ったときの「人の生」の儚さ、無力さ、そしてそれ故の尊さを、「トップをねらえ!」もまた謳っているのだ。
 「ウラシマ効果」というSFのガジェットにより、その「無常感」を、タカヤノリコという少女の青春期にビジュアルとして凝集してみせたことが本作のウリであって、そのアイデアやまさに非凡と言ってよい。


 しかし、そうした骨太なテーマを描きうる才能を持ちながら、毎度おなじみ過去の人気作へのオマージュとパロディで作品を塗り固めてしまったことが、あたしにはやはり不満であり、不愉快であった。
 無論、スタッフが「オマージュとパロディ」を本気でエンタテイメントとして組み立てているのは分かるから、「トップをねらえ!」という作品自体はこれでも良い。
 だがそれ自体で立派に自立しているテーマを、そうした味付けで視聴者に供することには、その手際が見事なだけになおさら、庵野監督の作家としての傲慢さが感じられてしまう。まあ要するにあたし、庵野監督がキライなんですね。(^^;)


 「照れ」と「キザ」。
 それがあたしにとって、庵野氏(本作においてはゼネプロスタッフと言ってもよい)を読み解くキーワードだ。


 当時の庵野氏は、恐らく、シリアスなテーマをシリアスに描ききることに抵抗があったのだろう。
 「こんなこと、素面じゃよう言わんわ」
 てな感じのノリ。つまり「照れ」である。
 真面目くさって重いテーマを語ることは、彼にとってこの上なく野暮であると感じられたのかもしれない。


 ところが彼(あるいはスタッフ)には、ウケねらいの浮薄なパッケージを装いながら、その実重厚なテーマを語っているという自覚もある。
 脚本の赤井氏がいみじくも語ったように、本作が
 「本当はすごく緻密に計算された重い作品」
 であると、チャンと自負しているのだ。
 その上で、ああいう斜に構えた演出をすることが、「キザ」でなくてなんであろう。言いたいことは、正々堂々と言えばいいではないか。


 りんたろう氏だとか高橋良輔氏など、あまり持ち合わせのないセンスを必死にやり繰りして真面目に仕事をする作家が好きなあたしは、そうした庵野氏の「キザ」さに、押さえようのない嫌悪を覚える。
 半分は妬み嫉みであることも分かっているが、素晴らしく豊かなセンスと才能を正攻法で表現しない、その傲慢さに。


 時は流れ、庵野氏も少しは大人になったのか、「エヴァンゲリオン」や「カレカノ」においては、少なくとも「照れ」ながらドラマを語ることは止めたらしい。
 だがその「キザ」な語り口はなお一層先鋭化されており、もはやあたしにとって氏は、「頼むから死んで欲しい」作家の一人となってしまった。そしてその作家作法に何らの疑いも持たず、氏の作品に熱中する若者の多さを見るに付け、我が身のセンスと現在の市場との断絶も、また痛感している。


 さて、どうも「トップをねらえ!」評と言うよりは庵野氏の作家評のようになってしまったので、最後にロボットアニメとしてのガンバスターについて触れてみよう。


 本作は、擬似的な意味でのキャラクターロボット復権(と言うより新生)に一役買ったと言ってよい。


 ガンダム以降、いわゆる「リアルロボット」一辺倒となったロボットアニメ市場は、「ロボットアニメ」というジャンルそのものをスポイルしてしまった。
 「機動戦士ガンダム0083」が良い例だが、あれはすでに「ロボットアニメ」ではない。単なる「人型兵器アニメ」である。
 作品自体の価値とは無論関係ないが、少なくとも「0083」からは、「ロボットアニメ」の楽しさを享受することは出来ないのだ。
 そしてそのことは、「Zガンダム」などで育ってきた世代には、自覚すら出来なかったに違いない。なぜなら、絶対的価値としての「ロボットアニメ」を、原体験として持たないのだから。


 「トップをねらえ!」は、そうした世代に、すでに過去の文化となった「ロボットアニメ」のテイストを、擬似的に再現してみせた。
 エクセリオン甲板に「腕を組んで」せり上がってくる、ガンバスターの堂々たる勇姿を見よ!(ちなみにこのシーンは、ウザーラとゲッタードラゴンへのオマージュ)
 かつて「ロボット」たる勇者達は、皆このように勇ましく出現し、威力絶大な主砲で辺りをなぎ払い、雄々しく吠え猛りながら、鉄の拳でガッコンガッコン敵を粉砕していたのだ!


 それを知らないお子様世代には新鮮な感動を、知っているあたしたち世代には郷愁を、ガンバスターはそれぞれ与えてくれたワケであって、その後の「懐かしロボ」風演出の隆盛は、本作のエンタテイメントとしての成功を如実に物語っていよう。

トップをねらえ!

ストーリー

演出

作画

メカニック描写

エポック度

総合評価

 ★総合評価基準=A・超良い、B・良い、C・普通、D・悪い、E・死んで欲しい

ちなみに絶対的な評価ではなく、その当時のアニメ界における相対的な評価です。



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