作品タイトル/奇妙戦士ビクトリアル銀河西尾伝説
作者/となりの国のARIS
一応完成した日/2021年07月22日


 遍在する宇宙国家のうちの一角に独裁制でありながら賢明な君主によって統べられている「銀河ラスカル帝国」という不思議な宇宙国家があって今回はその根城で起きた一つのお話です。


 国民の生活の上に嵩張る貴族たちが夜の一堂に会し豪勢な料理などが配され煌びやかな数多のドレスたちが反復横跳びしたりトンボ返りしているとても賓で賑やかな空間でのことです。


「人類、楽しまなきゃ損、損♪ 七代先でも子孫だし損♪」などとバリトンでタワケタ歌を歌いながら場内をさすらっている燕尾服のダンディな男性もいます。


(とりあえず駄洒落を打っときゃいいみたいな心根がまことにしょうむねーのよね)と目を細めながらドレス姿で床の模様を数えている淑女もいます。


 あちこちから「俺のトムキャット・レッド・ヌードル」とか「メンゴで済むなら、メンタリストTaiGoはイラネェんだYO!」などという声が愉快に高鳴ります。


 そんなお楽しみのところである皆さんの様子を壮麗な壇上から金色の美男子である皇帝陛下が空(から)のワイングラスを傾けながらつまらぬそうに見下ろしているのです。


「どいつもこいつも駄洒落ばかり。何か面白いことは起きないだろうか。笑う門に福来るとは古来からの大いなる知恵。そうだ、宇宙は生きているのだから、宇宙を喜ばせれば福が降ってくるはずだ。しかし具体的にはどうするべきなのか、ウーム、不敵な福笑い、とか?」


 などと皇帝陛下が一人で考え込んでいるとその間に空(から)の身軽なワイングラスがそんな油断している手のうちから抜き足差し足次いで駆け足「ワイン・グラシアス、ニンニン♪(ワインありがとな、ニンニン♪)」と囁きながらどこかへと逃げ出してしまいましたが福笑いのことで頭が一杯らしい金色の皇帝陛下は特に気づいていないようです。


 福笑いを取っ掛かりにして自分の中の深淵を覗いている最中らしい皇帝陛下へと忠実なるしもべが恭しく寄り添ってきて何やら秘かに告げます。


「なに? 一人の世にもケッタイな者が、余にもケッタイだと思わせるため謁見を所望してるというのか?」


「はい、おっしゃるとおりでございます、ラスカルト陛下。なにやら、星々を渡り歩いてきた流浪の者であるとか・・・・」


「まあよい。許可いたす。すぐにここへ連れてくるのだ」


 その者がこの場へと招かれたのです。


「よくぞ参った、旅の者。おもてを上げよ。余が、この帝国を統べる、ハチオウジーク・オトナシ・ラスカルトだ。ふむ、貴様、なかなかよい面構えだな。きれいな目をしている。して、その名は。申してみよ」


 周囲から大勢の耳目を集めているこの状況。


 侍女を思わせる面妖な黒衣のその年若い美女な来客がその透明感のある顔つきで皇帝陛下を見つめ返します。


「あたしくめの名は西尾楓子と申します、陛下」


「西尾楓子、ふむ、よい名だ。おぬしは、どこから来たのだ?」


「それは・・・・・」


「まあよい。ひとかたならぬ苦難の旅であったろう、その顔を見れば分かる。よくぞ、つらいなか、このときまで永らえてくれた。それで、わざわざこうして来たからには、余に何か問いたいことの一つもあるのであろう、申してみよ。どんなものでもかまわぬ。不敵な福笑い神に愛されし余は寛大なのだからな」


「ありがとうございます。それでは、お言葉にあまえて、ひとつ、お聞かせください・・・」


 西尾楓子という名前のその旅人は目の前の厳かなる皇帝陛下へとこう問いかけたのです。


「陛下の帝国で昔に出たあの有名な『こいつら100パーセント銀河田中伝説』についてですが、最近出たリメイク版はともかく、100話以上あるあの旧アニメは、原作に比して、世界観などの補強が上手かったり声優が豪華の極みであったりするのはとても素晴らしいことであるのですが、どうしてあんなに戦闘シーンはつまらな・・・」


「なんだと!? 容易ならざる者だとは思っていたが、貴様、さては毒を吹き出してることで有名な、あの"カエデリア"の出身か!!」


 激高して皇帝陛下は金色の灼熱を放ち始め周囲の皆さんが恐れおののくのに対して西尾楓子は引き続きあどけないものです。


「はい、おっしゃるとおりです。しかし、我が星"カエデリア・コニシオ"がかつて毒まみれであったのは本当ですが、以前、プリサミ星からもたらされた除去装置により毒はすっかり取り除かれ、我が星はもはや純白であり、星の声に同期し魂を更新済みであるあたくしめも、黒みが全くございません」


「そんなものは信じがたい!!」


 西尾楓子はその場で皇帝陛下直々に叩きのめされ全てが丸く収まったものだと皆さんの目には一瞬だけ見えたのです。






『次回予告』


 宇宙国家の一つであり独裁制を敷いている「銀河ラスカル帝国」は例の西尾楓子によった屈辱が忘れられず全宇宙から「西尾」姓の人間を一人残らず抹殺せんと目論み世界制覇へと踏み出します。


 そんな「銀河ラスカル帝国」へと別の宇宙国家でありどんな姓の人間も尊重されるべきだという義を掲げる「自由まるみみ同盟」が抵抗の狼煙を上げます。


 しかしそうはいってもやはり国や姓の存亡よりも人命や駄洒落のほうが大事だということで「自由まるみみ同盟」はまずは早急にできるだけ多くの「西尾」を改姓させようと講じたりするのですが「トナリノ・フェザーン・アリス」の暗躍によって悉くが無に帰してしまいます。


 そして「自由まるみみ同盟」が追いやられ全ての決着が悪しく着こうというそのときそこへまぶしく現れたのはグラシアスかつニンニンなあの御方だったのです。


「返しに来たぜ、貴様から受けたあのときの恩を。この清浄なる波紋ワインで貴様のその汚れちまった金色を浄めてやる! クリーニンニン♪」


 次回『奇妙戦士ビクトリアル銀河西尾伝説』最終回「さらば愛しき西尾よ」。見てください!(by シャクティ・ラスカリン) 




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