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SS『かわいい妹のやめてけれな続編』

公開日2022年8月29日

by となりの国のARIS

 



「すると、町のあちこちに空から、手のひらサイズのあのカスタネットが落ちてきたのです。「ここは、丸耳ではなく、丸穴だぜ。しかも満員だぜ。」と一人だけで陣取ったマンホールの中から出てくる色男の頭上にも、そんな空からの一つが落ちてきます。



 すぐ傍の路上で、出てくる色男に対峙している別の色男が、それに気付いてすぐさま叫びます、「宇宙(そら)よ、停(と)まれ! ザ・ハゲオン!」。敵対しているとはいえ、相手がマンホールでカスタネットに命を奪われたのでは、そんな意味不明なタナボタな勝ち方で自分のプライドが傷つくのもありますが、相手本人がさすがに不憫だからです。



 宇宙(そら)が再び動きだし、落ちてきたそのカスタネットは、ついさっきまでそこにいたはずの色男にぶつかることなく、そのままマンホールの空洞の中へと直下して消えました。救われ、近くの路上に逃れていた色男と、救いの手を貸して伴っているもう一人の色男はすっかり仲良くなり、一緒に館へと帰り、その後、彼らは館の他の住人と共に、夜通しでカスタネットパーティーを楽しみましたとさ。



 パーティーの終わり頃、先ほど館の外で救いの手を貸したほうの色男が、この場で悠々と魔王然とした拍手の要領で自分もカスタネットを叩きながら、告げます、「よくぞ、そこまで叩いてくれた、諸君の健闘を、ハゲであるこの俺が褒めてあげよう。」



 そう言い終えるや、魔王然とした物腰の色男は忽然と姿を消し、すぐにまた現れた色男は、謎の巨大な車両をその手に掲げており、突然のことに固まっている皆さんへと、こう叫ぶのです、「お礼に、ロードローラーやタンクローリーもいいが、せっかくだから俺はこの赤い第六文明人の遺跡だッ! 勝った! 第六部、完!」



 そして第六文明人の遺跡は館で壮大に爆発し、可能性の象徴である無限のハゲ力(はげぢから)が発動、何もかもがすっかり生え変わり、あの黒トミノも白トミノと化して、本当に白くなったのかしら、本当はまだ黒いのじゃないかしら、髪の毛の話じゃなく。



 めでたし、めでたし。」



 部屋の中、いつも清楚な美少女であるキクコお姉さまが、いつもの清楚な声で読み終える。床に座ったまま、手に持ったその本を柔らかく閉じる。



「うふふ。カエちゃん、どうだったかな。今回のオハナシ。楽しめたかしら。お姉ちゃんは、このオハナシ、すごくナイスでグーだと思うんだけど。」



 母性あふれる微笑を浮かべながら、お聞きになる。



 すると、読み聞かせをうるさくせがんで隣りで静かに聴いていた、幼女である妹のカエデコは、大人びた満足げな表情で、すっくと立ちあがる。唐突に満面を盛大無邪気な笑みに崩し、



「あたし、お姉さまと同じ、黒髪だも〜ん、ツヤッツヤだも〜ん。」



 何故か、いつもの調子で高らかに自慢し始め、次いで元気に踊りだす。



「キンゲOPのハゲダンスだも〜ん。オトミ監督の成人した息子さんが考えた振り付けだも〜ん。あたし、幼稚園で、アナヒメちゃんとよく一緒に踊ってるんだも〜ん。」



 などと騒ぎ、キクコお姉さまに微笑ましく見守られながら、デタラメに踊り狂っている。末恐ろしい幼女もいたものである。強い。



 ちなみに、アナヒメちゃんというのは、ここ「やめてけれ八王子公国」の豪族の娘で、カエデコとは懇意の級友である。カエデコの言う「キンゲ」というのは、その正式な名を『オーバースペックマン・キングハゲイナー・ヨシユキ』という、当時放映中だったアニメ作品の略称である。「キングハゲイナー」の意味は「キングハゲ・エンターテイナー」とのことである。やれやれ、妙な造語を今もなお、やたらと作りたがる、あの監督にはつくづく困ったものだぜ。






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