No.33
洋画界ツンドラ便り
以前にしょうむない邦画についてクソミソに書きましたけれど、洋画界にだってしょうむないものがゴロゴロしているのはこれ当然であって、今回はそういう寒い洋画についてちょっと書いてみようと思います。
もっとも前評判がゲロ悪い映画なんて最初から見ませんから、「話題にはなったんだけど見てみたらあまり面白くなかったよ」というレベルの作品を取り上げることになりますが。
ちなみに最近ロードショー公開された新作と、WOWOWで放映された旧作とをまぜゴハン状態にしてお届けいたしますのよ。
アザーズ
あたしは英国なんかの古いゴシックホラー小説が好きなんだけど、絵にするには地味なためかそういう作品が映画化されることってあまりなくて常々不満に思っている。と言って最近のスプラッタムービーなんかはとても見る気が起きません。血を見ただけで失神するような腰抜けなので、首がちぎれたり内臓が飛び出たりする画面を見たらその場で目ン玉が裏返って死んじゃうぜ。いやマジで。
そこへ「アザーズ」というオリジナルのゴシックホラー映画が公開されると知り、しかも見た人が皆口をきわめて傑作であると褒めちぎるので、これは是非見なくちゃなるまいと思っていた。
ただひとつ気になっていたのは、おすぎ氏がこの映画の宣伝に関わっていて、しかも「スゴク良く出来ている!」なんて絶賛していたことだ。
ハッキリ言ってあたしは、この人が「面白い」と言った映画を「面白い」と感じたことはただの一度もない。
映画なんてのは所詮娯楽であり、したがって各人がエモーショナルに視聴し、評価して良いのだなんてことは分かっているけれど、それにしても目が腐ってるんじゃないかと思うほどパッパラパーな批評をする。「沈黙の戦艦」が面白いなんて言ってるんだぜ。正気かい!
などと一抹の不安を胸に秘めながらもやはりワクワクして劇場に出かけたのだが、まさかこれほどズビシとその不安が的中してしまうとは思いもしませんでした。全くもう、腹が立つやら情けないやら。
何が不満と言って、この映画は巷間言われているようにオチの意外性というかドンデン返し感が重要なんだけど、あたしは上映開始後20分でそのオチが読めてしまい、その後どうやって時間をつぶそうかとマジ途方に暮れてしまったのだ。
これは別にあたしの頭が良いとか勘が良いとかいうワケではなく(そりゃ頭も勘も人一倍良いけどさァ)、そのオチが気が遠くなりそうなほどありふれたネタだったからである。
実際こんなハナシはホラーとかSF小説の世界にはどこにでもゴロゴロ転がっているし、星新一なんか似たようなオチのショート・ショートを百万遍書いてるぜ。張ってある伏線も必然として類型的なものになっちゃうわけで、これで先読みをするなと言う方がムチャであります。
ネタバレにはならないと思うので書いておくが、本作で扱っているテーマは登場人物たちの実存不安であって、しかし彼らの日常が安直な夢幻などではなく、我々の現実と何らも合理的整合性を欠かずに運営されているという描写が手柄であるとは言える。驚くほど若い監督が、地味だけれど脚本で見せる折り目の正しい映画を撮っていることも高く評価したい。だけど作品の構造上オチがバレちゃったら少しも怖くないという点で致命的だよね。
細かい恐怖シーンの演出も何だかこけおどしみたいなのばっかりだし、主演のニコール・キッドマンはどうにも薄っぺらい演技だしで、少なくともあたしは一度も恐怖に目を覆うなんてことはありませんでした。これなら例えば「危険な情事」なんかの方が6億倍怖いって。
それにしても、この映画のストーリーとか仕掛けに感心したり驚嘆したりしている連中というのは、一体どういうバカ者であろう。そこらの低能なお子様が喜んでいるならともかく、歴とした映画評論家が「想像もし得ないラスト」などと言っちゃうのはあまり無邪気に過ぎないか。
恐らく、たとえばおすぎ氏なんかは、まともな書物だのマンガだのを読んだことなどなく、基礎的教養ってヤツにテンから欠けているのかもしれないなあ。そうとしか思えないよ。それとも商売と割り切って何にでも片目をつむっているのかな?
いずれにせよ、映画そのものの出来よりもその評価のされ方が哀しくなっちゃうような作品でありました。不幸だよなあ、日本の映画評論も。
追記・ところであのプログラム冊子の上下2分割製本は、配給会社としてはせいぜい凝ったつもりなのかもしれませんが、単に読みにくいだけですのでもう止めてほしいです。
ミッション・トゥ・マース
WOWOWでかかったから見たんですが、何か「2001年宇宙の旅」をものすごく不細工にリメイクしたような作品だなあと思いました。
あたしはそもそも「2001年宇宙の旅」を「退屈!」の一言で片づけているんですが、この映画はその退屈なエッセンスのみを選り抜いて作っちゃった感じ。煎じた退屈ッすか。(煎じるなよ)
おそらくスタッフには「2001年宇宙の旅」に対する強烈な憧憬があるのかもしれないなあ。だから原典のチマチマした味付けを不器用にマネしようとしている風がある。
例えば「2001年宇宙の旅」では人のモッサリした動作を非常に長いカットで見せるという演出が随所にあるが、これは「宇宙空間」という異世界を際立たせるためであった。
しかるに「ミッション・トゥ・マース」ではそれを理念無く模倣しているため、何だか単にドジでノロマでカメな堀ちえみ宇宙飛行士のオンパレードという感じになっちやってる。
誰1人として、どんなにものすごい危機的状況にあっても、慌てたり焦ったり走ったりしようとしないんだもんな。あたしなら洟が出て脳がでんぐり返ってバカになっちゃうと思うんだけど、さすがに宇宙飛行士っていうのは肝が据わってるなあ。
パーフェクトストーム
これもWOWOWでかかったので何気にお茶飲みながら視聴しましたの。
「U・ボート」のウォルフガング・ペーターゼン監督が撮ったということ以外には何の予備知識も無かったのですが、見終わっての感想はと言うと、
「だから何?」
ってちょっと呆気にとられたような感じでした。
テロップによるとこれは実話だそうですが、過去にものすごい大嵐が発生したという事実があり、それによって漁船が一隻沈みましたなんていうエピソードを直球で投げつけられても正直面食らってしまう。そりゃ沈むでしょ、漁船くらい。
ペーターゼンは「これは“決断”を描いた作品だ」なんて語っているらしいですが、漁獲量と嵐のリスクを天秤にかける程度のことが映画で描くような「決断」かなあ。そんなのそこらのハゼ釣り船だって、スケールの違いこそあれ日々迷ったり腹くくったりしてると思うけど。オマケに張った目が全く出ませんでしたなんて虚しいラストを持ってこられると、1時間半もテレビの前に座ってた自分が可哀想になってきちゃうのですわ。イヤ実話なんだからしょうがないのは分かりますけどね。
もっともCGを始めあらゆる特撮技術を投入して作られた30メートルを超える高波の映像は素晴らしく、これはやっぱ劇場の大画面でそういうビジュアルテクニックを愛でる環境映画なのかもしれないな。こういう優れた技術を持っているのなら「土佐の一本釣り」みたいな名作を映画化すればいいものを、勿体ないなあ〜。
追記・にしてもダイアン・レインが未だ意外と若かったので少し驚いちゃったあたしだったり。
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