No.17
シュリ
先年話題となった韓国の新世代バイオレンスムービー「シュリ」をようやく見た。
見たと言ってもテレビで、しかも民放の地上波でなのだが、視聴し終えての感想はと言えば、
「ああ、劇場で見なくて良かった・・・」
というものであった。
要するにてんでつまらなかったのであるが、何ら収穫が無かったというワケでもない。
まず何がどうつまらないのか、ちょっと具体的に書いてみよう。
「南北朝鮮の和解が進む中、北朝鮮軍の指揮系統に混乱が生じ、やがてそれは、最精鋭の特殊部隊と韓国公安との血みどろの死闘に発展する・・・」というストーリーは、シンプルで悪くない。
「驚異的な破壊力を持つ新型の液体爆薬と、それによる大規模テロの陰謀。そして韓国公安部内に見え隠れするスパイの影・・・」というガジェットや見せ方も、ベタではあるが分かりやすくて結構だ。
問題は、それらをエンタテイメントとして効果的に昇華し得ない、制作者たちのセンスの無さだと言い切ってしまおう。何というか、とにかく垢抜けない。
オハナシがムチャクチャに荒唐無稽なのはまあ良いが、それが間抜けに見えないよう、演出でフォローするのが作家の仕事のはずである。それを間抜けなままに直球で放られてもなあ。
例えば「無色無臭の超液体爆薬」というネタも、見せ方次第でいかようにもリアリティを持たせられるハズである。それが「光と熱を与えると爆発する」なんつって、下手くそなCGでプワ〜ンプワ〜ンなんて光らせられてもなあ。
「すごそうだな」と思うより、何か笑ってしまうのである。ドラゴンボールか、爆薬。
何より肝心のコンバットシーンがハニャ〜な出来なのは致命的で、だってバイオレンスムービーってそのためにこそ作られるんだもんね。
そも最精鋭の特殊部隊と公安部のエリートが対決するのだから、互いにプロフェッショナルの凄味というのを感じさせて然るべきなのに、そんなの微塵もないんだもん。
敵1人を包囲するのに、ホントにグルッと円形に包囲するわ(撃てないっつーの)、せっかくツーマンセルで突入してるのに、全く互いをフォローしないわ、白昼、大通りで数十人に取り囲まれたテロリストがちょっと目を離したスキに逃亡するわ、何つーかもう、西部警察だってもうちょっとマシだろうと言いたくなります。
極めつけはやたらと人数だけはいるSWAT部隊で、主人公たちが室内で敵と対峙しているシーンに、何の脈絡もなくワッと突入してきては暴れまくる。しかもそんなシーンが二度、三度と繰り返されるので、何だか「しりとり侍」の野武士を連想しちゃったぞ。
それでテロリストの逮捕に貢献すればまだ良いが、突入した順番に行儀良く射殺されていくだけの無能ぶり。お前らは「リーサルエンフォーサー」のザコキャラか!
なワケで、劇場用エンタテイメントとしては相当に食い足りないというか退屈で気を失っちゃうような本作であるが、あの「ファイティングマン」を作っていたような映画後進国であることを思えば、それなりに健闘していると言えるかもしれない。何より、今後面白い物をどんどん作っていきたいという意気込みとチャレンジ精神がうかがえるのは大変結構だ。
要するに「シュリ」は、長く文化的鎖国状態にあった韓国の作家たちが、昨今の社会状況下、ようやく表現の自由を手に入れつつある「喜び」を形にしようとした実験作なのかもしれない。だから舌足らずで垢抜けない出来だけれども、そこには作家の息吹というモノが生で感じ取れる。
創作に対するその純朴な取り組み方は、「リング」だとか「踊る大走査線」なんてゴミくずが「面白い」エンタテイメントとして受け入れられている邦画界の現状からすれば、いっそ羨ましい気さえするくらいである。
頑張れ、韓国映画界!
そして「どうせハリウッドと同じモノは作れない」などと開き直ってのうのうとしている、我が国の志し無きスノッブ作家どもの蒙を開いてやってくれ!
追記・それにしても、分断された同族が罵り合う映画を娯楽として撮らなければならない、韓国のプロデューサーの心中を思うと暗然たる思いです。
東日本と西日本が戦争をしているようなもんだもんなあ。そりゃあ辛いと思う。
そしてそのことには、やはり我が国にも責任の一端があるのです。夢忘れまじと銘じましょう。
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