作品タイトル/まるみみ物語〜ロード・オブ・ザ・ラスノート〜
作者/となりの国のARIS
一応完成した日/2021年06月14日



 どういうわけだか知らぬが遥か「まるみみ電波界」からこの地上世界へと悪の象徴である一組の黄金無垢な「まるみみ」が落下したのである。

 ある日の午後、美少女ではあるが外見上は普通の人間の範囲内である高校生の西尾楓子は教室での退屈な授業の中また一つあくびを噛み殺す。

「徹夜で伝説監督ハゲオンについて思いを馳せていたからこうもなる」

 何かイイコト起きないかなぁと思いながら灰色の両目で窓辺の自分の席から無人の校庭を見下ろしていると快晴のもとにある明るいその校庭へと上空から一組の「まるみみ」が不意に出現して落着したのである。

 放課後になって西尾楓子がいつもの淡々な帰宅風情でそこへ通りかかると一組の「まるみみ」はまだそこで太陽の恵みを受けて光っている。

「教室から見て、まるみみだと思っていたが、やはりまるみみであったとはね」

 美少女高校生である西尾楓子はこの哀れらしき一組の「まるみみ」を堂々と拾いあげる。

 するとそこに何やら記されているものを見いだす。

「あん? ニャントロ語で何か書いてある。なになに、直訳すると、"このまるみみを頭に着けた者はラスカルになる"、ですって?」

 西尾楓子はそう呟くと失笑しながらもさりげない所作で「まるみみ」を鞄の中へと忍ばせている。



 数日後、他に人間の姿が無い自室での西尾楓子。

「まさか、本当だったとはね」

 何やら静かに高揚の様子。

「試しに一人、ぶちのめしてみたが、まさかあたしにそんなことが誰にもバレたりすることなくやすやすと成しおおせるほどの、素晴らしい能力が本当に手に入ってるとは」

 その頭部には円盤状の一対のものが張り付いていてあやしい黄金色を放っている。

 そして今の西尾楓子は自らのすぐ傍らに一体の背の高い痩身の白き化身を従える。

「あなたの名前、ピュア・ハート・ホワイトといったわね。あたしは決めた。かねてよりあの国を間違っていると考えていたが、今まではそのための力が無かった。しかし、ついにこのときが来た。あたしはあのとなりの国に住まっている凶悪な数多のARISどもをこの素晴らしきまるみみの力を使って粛清する」

 その両目は緑色にらんらんとしている。

 そして今の西尾楓子は自らの発言する感触をよく味わっている。

「となりの国のARISを滅ぼし、あたしは新世界のラスカルになる!」

 白き化身に見守られる形でそう宣言する西尾楓子。

 当の西尾楓子が自覚していないのは無理からぬことであったが悪の象徴であるこの黄金の「まるみみ」はその魔力として持ち主である人の精神を当人に気付かれもせずに難なく侵す。

 宿主を操ることにより悪事を行わせたりこの「まるみみ」を「愛しいシト」として末永く愛撫させるなどという魔力を秘めており密かにこの場合は西尾楓子へと宛てる。

 そんな「まるみみ」につけこまれたとはつゆ知らず美少女高校生である西尾楓子は邪悪に口の端を吊り上げている。

「すべての"となりの国のARIS"にさようなら」

 清浄ならぬこの地上世界でこうしてラスカル西尾が誕生したのである。完


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