No.4

プロレスの星

 BBSにコメントを書いていて思い出したのだが、先日とある上映会にて、「プロレスの星・アステカイザー」の戦闘シーンだけを、全話分一挙に観賞するという機会に巡り会った。


 無論そんな番組を見たことがないあたしにとっては凄まじいカルチャーショックだったわけだが、観賞後すでに二ヶ月が過ぎようとしている今日でも、頭の中ではアステカイザーの主題歌がズンチャッチャッチヤッ、ズンチャッチャッチヤッと鳴り響くわ、テレビに出ているタレントの顔が皆アステカイザーに見えるわ、みのもんたの顔は特にアステカイザーに見えるわ、あげくに「イヤーッ、もうやめてーッ!」などとわめいて夜中にベッドから転げ落ちるわと、お前は洗脳されたエルチ・カーゴかい!みたいな有様であって、こういう
恐怖体験はやっぱり他人様に話しちゃわないと勿体ないですよね。


 さてそのアステカイザーであるが、当時チラホラとあった実写とアニメの合体企画であって、この番組の場合、ドラマ部分が実写で制作され、戦闘シーン、つまりプロレスのシーンがアニメになる。・・・のだが、果たしてこれをアニメと呼んで、ディズニー御大は
発狂しないか?


 解説をしてくれた上映会係員によれば、当時このアニメ部分、プロダクションの
近所の主婦に原画をやらせているのではないかと噂が立ったそうである。うーむ、近所の主婦ならいいが(よかぁないって)、近所のデンデン虫かなんかにやらせたんじゃないかって作画だなァ。それほどヒドイ。


 まるで割りばしで引いたようなささくれた描線、グネグネとした不気味な動き、長さ太さが不均一な上、あらぬ方向に平気で曲がる手足・・・それら古代人の洞窟壁画みたいな原画が、いかにも当時らしい目のつぶれそうな原色で塗られているのだから、いやもうそのひどさたるや長時間見ていると吐き気がしてくるほどで、実際あたしは上映時間途中から意識が遠くなった。


 ストーリーというか世界観はと言うと、主人公であるアステカイザーなる戦士が、
「プロレス界」の平和をかけて悪と戦うというもので、なるほどタイガーマスクのような世界なのかなと思って見ていると、どうも勝手が違う。


 敵として立ちはだかる「悪のプロレスラー」たちは、どう見ても改造人間かダークロボットとしか思えない
化け物ぞろいで、全身からトゲを生やすわハサミを生やすわトンカチを生やすわドリルを生やすわとやりたい放題。こんなやつらがそこいらで暴れ出した日にゃー、別に「プロレス界」がどうしたという前にお巡りさんを呼んだ方がイイと思うが、この社会は彼らを「レスラー」として受け入れているんだから、その鷹揚さには頭が下がります。


 アステカイザーもまた、そうした物の怪を前にして微塵もひるまない。ていうかこのヒーロー、およそアニメ史上最強ではないかと思われるほど、
ムチャクチャに強いのである。


 何しろピンチにおちいるというシチュエーションが全くない。とは言え敵のレスラーだって必死であるから、たまには彼らの繰り出す技が決まることもあるし、凶器攻撃がヒットすることだってある。だがアステカイザーにとって、それらは蚊に刺されたほどのダメージでもないようだ。それどころか、その肉体をトゲやドリルに貫通され、大穴を開けられても、痛いという素振りすら見せないのだ。もう強いとか無敵とかいうレベルではなく、
「オバケは〜死なない〜♪」て感じである。


 こうなると逆に可哀相なのは敵レスラーたちで、暴れ狂うアステカイザーに、為す術なく虐殺されるのを待つだけだ。腕はもがれるわ足はもがれるわ首はちょん切られるわ(本当)と、制止するレフェリーがいないこともあって、リング上はヒーローによる一大スプラッタ劇場。そりゃあ敵レスラーにも非はあったかもしれないが、いくら何でももうその辺でイイでしょうと、視聴者の方がツッコミを入れたくなるほどの無情ぶりである。いやはや、こうまでして守らなければならない「プロレス界の平和」って何なのだろうか。


 さて観賞後、あたしが参加している同人会の科学顧問、米金敏三博士にお尋ねしたところ、アステカイザーはサイボーグでも魔物でもなく、
「普通の人間」だそうである。だけどそこそこに長いあたしの人生において、ああいう普通の人間て見たこと無いなあ。まあ改造人間ではないのかもしれないが、少なくともビックリ人間ではあるよなあ。


 それにアステカイザーって、画面で見る限り、人語を理解できず、また喋ることも出来ないようなのである。彼が発声するのは、「カイザーイン」、「カイザークラッシャー」という2種の音節のみであって、それらも明確な意味があって用いているのではないようだ。


 米金博士は、あれらはO次郎の「バケラッタ」同様、アステカイザーの
鳴き声のようなものではないかと推理しておられたが、だとすればやはり彼は人間ではなく、人間に似た、何か未知の生物なのであろう。


 「異種格闘技戦」どころか、「異生物格闘技戦」まで繰り広げちゃうんだから、プロレスってスポーツは懐が深いなあ。アントニオ猪木氏がゲストとして出演なさっていたが、さすがに「いつ何時、誰の挑戦でも受ける!」と豪語なさっていただけはあります。あたしがもしアステカイザーに挑戦されたりしたら、その場で目が裏返ってハナが出てバカになっちゃうもんな。山でクマに出ッくわすより怖いぞ、アステカイザー。


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