No.55

このアニメはこう見やがれってんだ!(16)

十兵衛ちゃん2 〜シベリア柳生の逆襲〜


 宇宙の終焉までの耐久性を持つタイムカプセルがあったなら、あたしは「十兵衛ちゃん」のDVDボックスを入れるべき、ていうか入れなきゃ殺すと思っている。(誰を)
 「十兵衛ちゃん」はそれくらい破格に価値のある映像文化の至宝なのである。見てないヤツは生きててもしょーがないので、又吉センセじゃないけど今すぐに腹を切って死ぬべきだ!



 その名作にてんこ盛り泥を塗った格好なのが本作「J2」であって、ネット上でもその失敗の原因について、やれシノプシスがテンからなってないだの、やれ新キャラが弱いだの、やれ旧キャラのイメージが変わっただの、やれ声優陣の入れ替えがイタイだのと様々に言われているが、そんなことはどれも、あたしの見たところ「J2」大ゴケの本質を毫も衝いているとは言えぬ。



 
「J2」は何故失敗したか?
 理由はただひとつ、他ならぬこのあたしラスカルにしおが、そんなものを決して作ってはイケマセンよと事前に宣していた、いわばタブーを犯したからだ。



 そも人間というのはもう手遅れクラスにバカで愚かで弱くて不完全な存在であり、だから様々な過ちを犯すことは避けられないけれども、しかるに神にも等しい賢人の言うことに注意深く耳を傾けるならば、少なくともその過ちを最小限にすることはできる。
 すなわち人類が何でもあたしの言う通りにさえしていれば、やくたいもないスカアニメはもちろん、一切の戦争や貧困ですらこの世から無くなるのであるが、逆にあたしの声に耳を塞ぐときには、どんなに才能豊かなアニメプロデューサーであれ愚作をものすることが最初から約束されている。「J2」もその理(ことわり)からは逃れられなかったという、この失敗はそうしたシンプルな帰結なのだ。



 いやあたしは何も、自分が神のように賢いと偉ぶりたいのではない。むしろその英知を持ってしても、この件に関して無力であった我が身を責めているのである。
 あたしのテレパシー能力がもっと強ければ、そしてもっと懸命に「J2やめときや〜!」と念を送っていれば、大地監督をしてこの企画に関わることの愚かさに気付かせられたやもしれぬ。
 そう考えると、消耗する我が身可愛さに送念を渋ってしまったあたしの怠慢がこの事態を招いたとも言え、十兵衛ちゃんファンの皆様には心よりお詫びしたい。
 インテリには愚民共のために命を賭してまで果たさなきゃならない責任てもんがあるんだよな。あたしもまだまだだ・・・・。



 追記1・文芸はダメな本作だが、ビジュアル的にはスーパー上質であることも確かである。さすがはマッドハウス!特に殺陣の迫力は前作をも全く寄せ付けないもの凄さ。何て勿体ないんだろう。

 追記2・十兵衛ちゃんのCVを小西氏から引き継いだ堀江由衣氏はトンデモ不評だったが、小西氏と比べるのが間違っているのであり、ていうか「J2」がそもそも間違っているのであり、堀江氏を責めるのは酷であろう。あたしは逆に、何て真面目に、健気に演じてるんだろうと氏を見直しましたよ。



LAST EXILE(ラストエグザイル)


 
すごく面白い。スタッフとして前田真宏氏が関わっていることも大きいだろうが、それにしてもこういう骨太の力作をたまにズバッと放ってくるから、養豚場と誹りつつもGONZOという会社は怖いよなあ。(どうやら発足10周年記念作品らしいです)
 まあ作品としての完成度をトータルに見れば60点未満だと思うんだけど、26話という長尺(最近としては)を一気に見せるだけの迫力を持っていることは確かだろう。あたしゃ久しぶりにワクワクしながらTVアニメシリーズを見ましたよ。



 内容的にはラピュタの青6風味、ナウシカ添えという感じで新味こそないが、クラウディア機関と呼ばれる架空の飛行動力を軸にした、世界観の大胆なデッチ上げぶりが素晴らしい。ファンタジーならまずこれをやらなくちゃ。
 キャラ達の分かりやすい、自然で当たり前な行動、心情も好印象。愚かな作家のスピーカー然として空疎な能書きや修辞を垂れ流すだけの、某御大アニメキャラにも見習わせたいよ全く。
 その彼らが天より睥睨する神にも等しい支配者に牙を剥き、圧倒的なテクノロジーの格差にも怯まずに決戦を挑むクライマックスも痛快!イカスぞラストエグザイル!燃えるぞラストエグザイル!(弱火で)


 
 と盛大持ち上げておいてアレですが、
あのヘナヘナプーの最終回は何なら!
 大団円は大団円なんでしょうが、肝心の主人公らがいきなりその蚊帳の外に置かれちゃうような展開には首をひねらざるを得ないし、何よりアニメ史上屈指のクソ憎々しいラスボスをせっかく見事に演出しておきながら、一瞬でKOしちゃってハイ目出度しって、
そんな塩試合でお客さんが満足するかカタルシスを覚えるかヴォケ!もっとガスガスガスガスガスガスガスガスボコり倒し、ピヨってるところをさらに折って畳んで裏返してスカイラブハリケーン系ぶちかましでバラバラにしてやらなきゃ溜飲なんぞ下がるかい!・・・ってあたりのフラストレーションで大幅減点かな。まあこのコケ方も青6を彷彿とさせてGONZOらしいっちゃらしいけど。



 追記1・3DCGワークは、TVシリーズ向けとしてはそこそこハイグレードで良かったと思います。ていうか他作品の3DCGがひどすぎるんだけどね。

 追記2・上で記したようなことはホントは割とどうでも良く、あたし的に一番モヤモヤが残ったのはディーオの扱いだったな。
あの可愛いディーオはどうなっちゃったの何処へ行っちゃったの?ディーオ!あたしのディーオ!

エリア88


 人気マンガの2回目だったか3回目だったかのアニメ化である。
 そのマンガの人気を支えていたのはまず軍事には薄々のパンピーたちであって、ミリヲタや航空機マニアたちには随分不評を買ったり描写のインチキぶりを笑われたりしていた印象もあるが、あたし個人的にはあの原作を、

(1)現代航空戦においても昔と変わらぬドッグファイトが戦われ、そこではパイロット個人の技量が大きくものを言うことを、素人にも(マンガレベルではあるが)分かりやすく紹介した。
(2)個性豊かな猛者達が集い、大暴れするという「水滸伝」的な痛快さがうまく出ている。

 という二点において評価している。決して傑作だとか名作だとか言われるマンガじゃないけれど、エンタテイメントとしてまずまず成功していると思うのだ。



 とは言えさすがにもう古臭さの否めない作品をどうして今さらまたアニメ化するのか、真の企画意図なんぞ無論分からないけれど、恐らくその理由の1つには、近年の3DCGアニメの急速な発達、普及があるんじゃないかと思う。
 巨大かつパネルライン等ディティールの込み入った現代戦闘機を手描きでアニメートするのは大変だが、3DCGならばそれを手軽に、安価に動かせる。今ならばグリグリ存分に動くアニメ「エリハチ」を作れるだろう、よし作っちゃえという、些か安直な目論見が制作者側にはあったのかもしれないな。



 しかるに、せっかくそうやって作った肝心の航空戦シーンがまずもって本作のネックになっちゃってるのは皮肉なり。ぶっちゃけ低レベルなんて言ったら褒めすぎなくらい。ヒドすぎるぜホント。
 舵面を全く動かさずに離着陸したり機動したりはまだご愛敬で、キムのハリアーなんぞはエンジンも動かさずに(タービンブレードが回ってない)悠々と大空を行く。
お前はサイボーグ001か!



 あたしは何も、空力的に正しい描写をしろだのプレーンヲタに考証をさせろだのと野暮を言いたいのではない。見てカッコ良ければインチキな機動だって全然オッケーだ。
 だけどエンタテイメントとして飛行機モノを作ろうっていうなら、いくら何でも最低限押さえておかなきゃいけない基礎知識っていうかコモンセンスっていうか、そういうのあるんじゃなかろうか。例えば「秋田犬物語」などという犬の映画を作るとして、しかし劇中に出てくる犬がブルテリアだったりしたら物笑いであるように。
 同じ飛行機モノである「マクロス」だって空戦描写には(未来メカであることを勘案しても)ウソが一杯だが、あれらは河森氏がウソと承知の上で演出上の効果を優先させているのであり、つまり知っていてあえてウソを描くのと、知らないからどうしてもウソを描いてしまうのとは根本的に違うわけで、まあ毎度書くことで恐縮だけれど、もうちと表現するモノに対してこだわりを持ちなさい、愛を持ちなさいと、創作に関わる上での基本的な気構えを説きたいですね。



 追記・どうでも良いけど、ドラマ部分は原作の80億倍くらいつまらない。キャラ描写も最低。ミッキーやグレッグまでがサッパリ意味無しってのはどうよ。あれならテンから出さない方がまだマシだ。個人的には
ウォーレン様が出てこないってのが一番ムカついてる。


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