No.63

GODZILLA FINAL WARS

 
 見た目「7歳児向け・良く分かる怪獣総進撃」という体裁だが、その実非常に強烈なメッセージ性を有した映画であり、だけど誰もそのことについて書かないので、仕方がない何を今さらだがあたしが書いてやろうじゃないか。良く読んでインテリの視座というものを少しでも学ぶことだな諸君。



 さて作品のメッセージ云々と書いたが、それが何かを正確に読み解くカギは、
侵略者たるX星人側内部における世代交代劇にある。
 軍事力でもって強引に侵略をしちゃえば良いじゃないかという若手勢力に対し、老統制官は、地球の指導者たちを徐々にX星人(の変身した替え玉)に置き換え、緩やかに、しかし確実に支配を実行しようとする。
 侵略にも相応の手順というモノがあり、これまでそのやり方でずっと上手くやってきたのだというのが彼の主張であり立場だが、若い参謀はその老統制官をためらいなく射殺して後を襲ってしまう。


 
 シノプシスを一見して分かるとおり、このエピソードはストーリー本体の展開に何ら寄与していない。即ちX星人が勢力として一枚岩であり、最初から圧倒的な軍事力でもって侵攻を開始したとしても、映画全体の構成(X星人の操る怪獣軍団VS地球軍&ゴジラ)はそのまま破綻なく成り立ってしまう。にもかかわらずそれをわざわざ盛り込んでいるのは何故かというと、上で書いたとおり、こここそがこの映画の主題だからである。



 ここまででもうお気づきの方も多かろうが、要するに本作は
映画の形を借りた檄文なのである。そしてそれが何を誅すべく書かれているのかと言えば、明らかに怪獣映画、もっと言えば現代邦画界、もっともっと言えば現代日本社会をあまねく覆う老害(広く既存秩序と言い換えても良い)と、それに因する閉塞感に他なるまい。



 そも「自称」ゴジラファンというふれこみのオッサン作家たちが散々に撮り散らかしてきた、平成ゴジラシリーズの惨状たるやどうだ。目を覆いたくなるなどと言ったら持ち上げすぎなくらいだぜ。
 環境問題を描いてみました、日本人のアイデンティティ喪失とそれによる社会不安を描いてみました、家族という社会単位の解体と再生を描いてみました、生命倫理への冒涜に警鐘を鳴らしてみました、原点回帰で原水爆を始めとする現代文明批判をやってみました等々というクソみたいな能書きばかりはいっちょ前だが、肝心のスペクタクル部分はてんで面白くも何ともねーじゃねェかまずは怪獣がド派手に暴れまくって何でもブチ壊しまくって踏みつぶしまくってかぶりつきまくって燃やしまくってあ〜気持ちイイ〜!っつ〜カタルシスが描かれないと話にならないだろお前らアフォですか!!
 怪獣ファンの多くが等しく抱えているであろうそうした欲求不満と苛立ちが、新進作家である北村龍平監督の胸中をもまた満たしていて、それが
「もうイイからテメェら(重ねて言うけど老害=この場合は既存の映像作家や、映画を撮る上での旧来作法)どいてろよ!」という、一種やるせない糾弾の叫びとして本作に込められたのではと想像される。



 しかし同時に、では若手が好きにやれば無条件に面白いモノが作れる!(完璧な新秩序を構築できる)とまで氏が自惚れていたのでもないらしいことは興味深い。
 それはドラマ全体の構成からも明らかで、そもX星人の若手勢力はまさにその若さ(理想主義、合理主義によって世界が一様に改善されるのだという小児性)故に敗北してしまうわけだし、さりとて人類側の「勝利」が希望と共に結末として描かれるわけでもない。そこにあるのは果てなく続く瓦礫の山であり、あからさまに
「滅び」を匂わせる無秩序でしかないからだ。
 それは、既存の秩序を全てブチ壊せば真に望ましい世界が現出するわけではない、そんなことは分かっているというスタンスの表明であり、だがしかし、そうまでしなければ怪獣映画(換言すれば社会)はそのダイナミズムを完全に喪失してしまう、まして再生などはとてもおぼつかないぜというアイロニーでありアジであろう。
 鼻持ちならないビッグマウスぶりでつとに鳴らしてきた北村氏だが、そうした自省を視点としてキチンと盛り込んであるのには唸らされたし、それが基本的には薄っぺらなこの映画の文芸に、些かではあるけれども深みを与えているように思える。



 あたしはこういうメッセージ性が前面に出た映画は基本的に好みではないけれど、そのメッセージ内容に心情的には共感を覚えることと、またそれが怪獣による破壊カタルシスをスポイルすることなく盛り込まれているという点で本作を評価したい。
 「怪獣映画ならばスペクタクルをまず見せろ!余計なテーマなんぞ入れるな!」という主張を、しかし自らはテーマとして強い調子で込めなければならない、ハナから矛盾を孕んだアクロバティックな作劇を、北村氏がそこそこ手際よくこなしていることは確かだと思うからだ。
 氏がわざわざ意図して
「焼け野原」とした怪獣邦画界に、今後その意を酌んで全く新しい作品が活き活きと芽吹くことを、一怪獣ファンとして心より願わずにはいられない。



 追記・若手X星人、北村一輝の勢いよく頭が壊れているキャラは出色。伊武雅刀を排除した時点ですっかり目的意識を失ってお笑い芸人に堕しちゃうあたり、映画のテーマとも何気に符合していてイイ味出てます。



 追記2・クライマックスに入ってからの戦闘シーンは、怪獣パート、人類パート共にダラダラと長すぎる。編集時に丁寧にシェイプをすれば格段に印象が良くなったと思われ、その詰めの甘さは残念だ。



 追記3・アンギラスやカマキラスのマンガチックなアクションには賛否あると思うが、あたしは個人的に(絵の出来自体は置くとして)好印象を持った。本作ではそういう、かつて操演の担当していたパートに集中的にCGを利用しているように見受けられ、平成ゴジラに共通する漫然としたCGワークに比して格段に絵作りのメリハリが効いている点は価値だろう。
ちなみにカイザーギドラは最悪。何だよあのクソデザイン。


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