No.82

このアニメはこう見やがれってんだ!(40)

 
 

絶対少年

 
 NHK・BSで放映された長編オリジナル作ということで随分期待をして見たのだが、外箱ばっかり大っきくて中身が2ミリくらいしかない上げ底菓子な印象でガカーリ。
 またぞろ個人攻撃ばかりやってるとお叱りを受けるかもだが、
あたし的に、シリーズ構成やってる伊藤和典氏のダメ〜な部分が前面に出てしまったように感じました。



 「ガメラ2レギオン襲来」でもそうだけど、氏は作品の世界観やそこで起こる事件を構想する力はあるが、ドラマテラーとしてはいつまで経っても素人臭く、キャラは状況説明のために出てくるだけで、彼らの心情に視聴者を惹き付け、それによって物語を牽引するということが出来ない。
 「レギオン」では素晴らしいスペクタクル演出によって目立たなかったその弱点が、人物中心で見せるこうした地味系作品ではいきおい際立ってしまうワケだ。


 
 それは第一部で特に甚だしく、特段何が起こるわけでもないジミ〜な僻村をジミ〜な駄キャラ共がウロチョロするだけのユル映像を延々垂れ流すんだからワシャカナワンヨ。正味氏んだ方がマシの退屈さである。



 続く第二部のキャラにはちょっぴりだけど立体感があり、ドラマも途中まではそこそこにミステリアスで面白いのだが、クライマックスでいきなり超常現象パニックムービーになってしまい、しかもそれが絵的に面白くも何ともなく、トドメにその正体についてグダグダ言葉で説明し始めるので安さ爆発もう助けてくれ。



 市場も業界もさあ、そこそこ実績のある人として、伊藤氏を甘やかしすぎてるんじゃないのかな。
 作家が書きたいモノを好きなように書くのはイイことなんだけど、それがどう見ても駄作凡作であった場合、ノーサンキューをキチンと突き付けてやることもまた大切ではないのか。



 あたしは一連の押井映画の脚本もゴミクズと斬って捨ててるクチだから、そも伊藤氏に対する評価は低いんだけど、そのバイアスを抜きにして見ても本作はショボすぐる。
 
国営放送もこんなモンに突っ込んでる受信料があるなら、いい加減「マルコ・ポーロ」のフィルムを掘り出してDVD発売しないと文化財保護法違反で告訴ブチかますぞボケめが。



 追記・監督の望月智充もなあ、昔の「海が聞こえる」はスゴク良かったのに、どうしてこんな面白味のない演出家になっちゃったのか。
 「スピカ」の時も冴えないなあと思っていたが、この「絶対少年」でモウ完全にイラネ。馬で言えば早熟のマイラーだったってことでつか。
 
 

true tears

 
 異常に頭の悪い主人公と、やたら勿体ぶってスカしてるクセに内実は身持ち最悪の淫売ヒロインとによって、周り中の者が泣いたりバカを見たり事故ったり投身したりする不条理恋愛劇・・・・という体裁を取りつつ、真には、石動乃絵という少女が、絵本の世界から人間社会へと帰還するドラマが眼目になっている。



 乃絵はその豊かすぎる感受性によって、自我が過度のダメージを負わないよう、無自覚のうちに人として生きることを拒んでいる、ネオテニーティックな美少女だ(涙を流さない、あるいは流せないというキャラクターに象徴されている)。
 彼女が当初、異性とのスキンシップにもまるで無頓着なのは、そも相手を真には人として認識していないからである。


 
 そんな乃絵が、初恋の相手から拒絶されることによって、皮肉にも人の世と向き合わざるを得ず、結果、失っていた涙を取り戻す・・・・・書いてしまえば、オハナシはただそれだけのことなんだけど、初めての恋(をしてしまった自身)に戸惑いながら、しかし心の高揚を抑えきれない乃絵の心情描写には迫力があり、それがこの一見地味で起伏に乏しい物語を強く牽引している。



 ラストシーン、思い出の場所に1人佇んで涙をこぼす乃絵の姿は、「人は個人では決して人たり得ない(世界に我ただ1人であれば、他者との関係に泣く必要もない)」という本作のテーマを上手く体現していて感動的だ。
 主人公・真一郎がいみじくも語ったように、本当に大切な人を想うと、涙は勝手にあふれてくる。
 人はどうでも良い他人のために泣いたりはしない。真に愛しい相手だからこそ、時に激しく憎んだり、独占を願ったり、屈従させたくなったりするのだし、またその相手との交流や断絶に涙もするのだ。
 
つまり本作で言う「真の涙」とは、人(乃絵)が、その辛さ苦しさも我が身に引き受けながら、あえて人の世で生きていこうとする表明なのだと解釈できよう。



 やや尺が短すぎた印象は抜きがたいし、ためにキャラの掘り下げや全体の構成に不足はあるが、良い作品を作ろう、見せようというスタッフの誠意が、作品を十分以上に美しく輝かせている。
 こういう、チョイ暗めの青春モノが好きな人に是非推したい力作だ。



 追記・作画は全体に上質で、モブにまでいちいち演技が付けてあるこだわりには感心させられたが、スケジュールの都合なのか何なのか、セリフの途中で不意に止め絵になってしまうようなシーンが多いのは気になりました。
 一方で、肌を突き刺す寒気すら表現されているような入魂の美術には心より敬意を表したいです。



 追記2・長いエンドロールの間、佇む乃絵の表情を見せずにおき、春風に吹き千切られていく涙(true tears!)だけを映してその心情を表現したラストカットの鮮烈さはお見事。
 ステロタイプではあるが、年間ベストエンディング賞を差し上げたいくらいの美しい締め方ですわ。



 追記3・スゴイ美人で優等生で名塚佳織でという勝ち組のくせに、恐るべきマイペースと狭量ぶりでもって、「あたしを口説くんなら他の女とちゃんと切れてこい!」と主人公に迫り、のみならず脱落組の女子に「あたしの男に近寄るな!」とダメを押すヒロイン・比呂美のキャラが強烈。
 
あたしだって「最終兵器売女」とか「ぴちぴちビッチ」とか心無い二つ名を頂戴したことがあるが、それでもこのヒロインよりはマシだと思う。まさに女のクズ。



 追記4・その比呂美のあんまりなクズっぷりによって、乃絵や愛子という敗者たちの魅力のがより際立つという、歪んだドラマ構造がステキいわ。
 
殊に乃絵ちゃんの健気さ、愛らしさは出色。
 無責任に自分を捨てた男の晴れ姿を、頬を上気させ、目を輝かせて見つめるシーンが切なすぐる。
 涼宮ハルヒが更に発狂したようなエキセントリックさに、フツーなら絶対引いてしまうキャラだけれど、そんな娘の幸せを願って止まない心情へ、無理なく視聴者を導いたドラマ運びはやはり巧みだと思う。



 追記5・特筆しておきたいのが、OPテーマ「リフレクティア」の素晴らしさ。歌詞はダメダメだが、メロディがホントに美しい。
 3Dワークによる祭りのディオラマアニメとのシンクロぶりにもシビれちゃったぜ。


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